振込手数料はどちらが負担するか|法人取引の慣習と決め方

・法人口座・会社のはじめかた編集部(監修:田中 祐介)

請求書を出したのに、入金額が請求額より少し少ない。よく見ると振込手数料が引かれている——法人取引を始めると、ほぼ必ず一度は出くわす場面です。振込手数料をどちらが負担するかは、法律上の原則と実際の商慣習が少しずれているところがあり、もめやすいポイントでもあります。この記事では、原則の考え方、業界ごとの慣習、契約書や請求書での決め方、そして手数料を引かれて入金されたときの処理までを、実務の順番に沿って整理します。

この記事の結論

  • 振込手数料は、法律上は原則として支払う側(債務者)が負担する形が基本とされていますが、当事者の合意があればそちらが優先されます。
  • 実務では「売り手が負担する(買い手が手数料を差し引いて振り込む)」慣習も広く見られるため、取引開始時に契約書や取引基本契約で負担者を明記しておくのが確実です。
  • 請求書に「振込手数料は貴社にてご負担ください」と書いただけでは合意にならないこともあるため、初回取引の前に相手の支払条件を確認しておくとトラブルを避けやすくなります。

法人取引で振込手数料はどちらが負担するのが原則か

民法には、弁済(支払い)にかかる費用は、別段の意思表示がなければ債務者が負担する、という考え方の規定があります。売買代金や業務委託料を支払う側が債務者ですから、原則をそのまま当てはめれば、振込手数料は「支払う側(買い手・発注者)」が負担する形になります。

ただし、この規定は当事者の合意があればそちらが優先される性質のものです。契約書に「振込手数料は受取人の負担とする」と書いてあれば、その合意が基本になります。つまり「原則は支払う側、ただし合意が上書きする」という二段構えで理解しておくと、実務の判断がしやすくなります。

法律上の整理と実際の商慣習は必ずしも一致しません。原則だけを持ち出して相手に主張すると関係がぎくしゃくすることもあるので、まずは自社が置かれた立場と、相手の社内ルールを確認するところから始めるのが現実的です。

実務ではどうなっている?売り手負担・買い手負担の分かれ方

実際の法人取引では、支払う側が手数料を差し引いて振り込む、つまり売り手(請求する側)が実質的に負担するケースも少なくありません。大手企業や、支払件数が多い企業ほど、社内の支払ルールとして「振込手数料は差し引いて支払う」と定めていることがあります。この場合、一社ごとに交渉するより、取引条件として最初に提示されることが多いです。

一方で、継続的な取引や、発注者側が立場として配慮する取引では、支払う側が手数料を負担して請求額どおり満額を振り込む運用も広く見られます。どちらが「正しい」というより、業界や企業規模、取引の力関係で分かれているのが実情です。

判断に迷ったら、次の順で見てください。①契約書・取引基本契約に記載があるか、②相手から支払条件の案内(支払サイトや手数料の扱い)が出ているか、③過去の入金実績で差し引かれているか。この三つを確認すれば、たいていの場合は答えが出ます。

自社が売り手のとき:請求書と契約書で決めておく手順

売り手として手数料を相手に負担してもらいたい場合、順番が大事です。まず取引開始前、見積書や取引条件の提示の段階で「振込手数料は貴社ご負担でお願いしております」と伝えます。次に、取引基本契約書や業務委託契約書を結ぶタイミングで、支払条件の条項に「振込手数料は買主(委託者)の負担とする」と明記します。請求書への記載は、その合意を念押しする最後の工程と考えてください。

請求書だけに小さく「振込手数料はご負担ください」と書いても、相手の社内ルールが差し引き支払いであれば、そのまま差し引かれて入金されることがあります。請求書は一方的に送るもので、それだけで合意が成立したとは限らないためです。書面での合意を先に取っておくと、後から指摘しやすくなります。

相手が大口顧客で、手数料負担を交渉しづらい場合もあります。その場合は、手数料相当分をあらかじめ見積単価に織り込んでおく、あるいは支払回数を月1回にまとめてもらう、といった方法で影響を抑える考え方もあります。値付けに関わる部分なので、自社の利益計画と合わせて検討してください。

自社が買い手のとき:差し引いて振り込む前に確認すること

支払う側として手数料を差し引きたい場合も、勝手に差し引くのは避けたほうが無難です。契約書に記載がないまま差し引くと、請求額と入金額が合わず、相手の経理で未入金扱いになったり、督促を受けたりします。発注前か、遅くとも初回請求の前に、自社の支払条件として文書で伝えておきましょう。

注意したいのが、取引の内容によっては下請代金支払遅延等防止法(下請法)の対象になる場合があることです。親事業者が下請事業者に支払う代金から一方的に費用を差し引く行為は、事前の書面合意がないと問題視されることがあります。自社が発注側で、相手が小規模な事業者である取引では、事前合意の有無をとくに丁寧に確認してください。詳しい適用範囲は公正取引委員会や中小企業庁の資料をご確認ください。

実務の手順としては、①取引開始時に発注書・基本契約で「振込手数料は受注者負担」と明記する、②初回支払前に相手の経理担当に一報入れる、③差し引いた金額と手数料額が分かるように支払明細を送る、の順で進めるとトラブルが起きにくくなります。

手数料を差し引かれて入金されたときの経理処理

請求額より少ない金額が入金されたとき、まず売掛金と入金額の差額が振込手数料相当かどうかを確認します。手数料相当であれば、差額を支払手数料などの費用科目で処理し、売掛金を消し込むのが一般的な扱いです。差額が手数料と一致しない場合は、値引きや相殺、単なる誤入金の可能性もあるため、相手に確認してから処理します。

消費税やインボイス制度との関係では、売り手が手数料相当額を負担した場合の扱いに複数の考え方があり、売上値引きとして処理する方法などが実務で用いられています。どの処理を選ぶかで必要な書類の整え方が変わることがあるため、自社の処理方針は顧問税理士に確認しておくと安心です。

毎月同じ取引先から少額ずつ差し引かれると、消し込みに時間がかかります。会計ソフトの自動仕訳ルールで「差額が一定額以下なら支払手数料に振り替える」といった設定ができる場合もあるので、件数が多い会社は仕組み化を検討してください。設定の可否や方法は、利用中のソフトの公式ヘルプを確認するのが早道です。

ネット銀行を使うときの考え方と、法人・個人での違い

楽天銀行をはじめ、法人向けのネット銀行では、振込手数料を「相手負担(受取人負担)」に設定して送金できる機能が用意されている場合があります。この機能を使うと、送金額から手数料を自動で差し引いて振り込めるため、差引計算の手間が減ります。ただし、機能があること自体は、相手に負担してもらう合意があることを意味しません。使う前に契約上の取り決めを確認してください。なお、手数料の金額や機能の有無、条件は銀行ごとに異なり変更もあるため、各銀行の公式サイトで最新の情報を確認してください。

法人と個人で、負担のルールそのものが法律的に変わるわけではありません。ただ実務上は、法人どうしの取引では契約書で定めることが多く、法人が個人(フリーランスや個人事業主)に支払う場合は、発注者側の支払ルールがそのまま適用されることが多い、という傾向はあります。個人事業主として受注する側であれば、契約時に手数料の扱いを確認しておくと、あとで金額が合わないという事態を防げます。

銀行を選ぶ段階では、手数料の水準だけでなく、①同一銀行あての振込が多いか、②総合振込(一括振込)に対応しているか、③会計ソフトと連携できるか、の順で見ると自社に合うものを絞りやすくなります。支払件数が月に多い会社ほど、一件あたりの手数料差より、振込作業と消し込みの手間の差が効いてきます。

迷ったときの決め方と、相談先

最後に判断の順番をまとめます。まず契約書を見る。記載があればそれに従います。記載がなければ、過去の入金・支払実績を見る。実績があればそれが事実上の運用です。どちらもなければ、原則(支払う側の負担)を出発点に、相手と文書で取り決める。この順で進めれば、ほとんどのケースは整理できます。

取り決めたあとは、契約書の支払条項、請求書のテンプレート、会計ソフトの仕訳ルールの三つを揃えておくと、担当者が変わっても運用がぶれません。新規取引を始めるたびに、この三点セットを確認する習慣をつけておくと安心です。

下請法の適用が気になる取引、継続的な差し引きが生じている取引、消費税やインボイスの処理方針に不安がある場合は、早めに専門家に相談してください。契約条項の作り方や下請法の該当性は弁護士に、消費税の扱いや仕訳の方針は税理士に確認すると、自社の状況に沿った判断がしやすくなります。

よくある質問

契約書に何も書いていない場合、振込手数料はどちらが負担しますか。

法律上の原則では、別段の合意がなければ支払う側(債務者)が負担する形が基本とされています。ただし実務では売り手が負担する慣習も見られるため、原則を出発点にしつつ、取引先と文書で取り決めておくことをおすすめします。判断に迷う場合は弁護士にご確認ください。

請求書に「振込手数料は貴社ご負担でお願いします」と書けば有効ですか。

相手がそれを了承していれば運用として通りますが、請求書の記載だけで合意が成立したとは限りません。相手の社内ルールが差し引き支払いであれば、そのまま差し引かれることもあります。取引開始前に見積書や契約書で明記しておくほうが確実です。

手数料を差し引かれて入金された場合、どう処理すればよいですか。

差額が振込手数料相当であれば、支払手数料などの費用として処理し売掛金を消し込む方法が一般的です。消費税やインボイスの扱いには複数の考え方があるため、自社の処理方針は顧問税理士に確認しておくと安心です。

ネット銀行の「相手負担」機能を使えば、手数料を相手に負担させられますか。

送金時に手数料を差し引く操作はできますが、それは契約上の合意とは別の話です。合意がないまま差し引くと入金差異や督促の原因になります。機能の有無や条件、手数料額は各銀行の公式サイトで最新情報を確認してください。

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この記事は一般的な情報をまとめたものです。税務・法務・労務の個別の判断については、税理士・弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。 料金や条件は変わることがあるため、お申し込み前に必ず各サービスの公式サイトで最新の内容をご確認ください。