ソフトを使わずに電子帳簿保存法へ対応する|クラウドドライブ運用の限界
メールに添付されたPDFの請求書、通販サイトからダウンロードした領収書。こうした電子取引のデータは、紙に印刷して保管するのではなく、データのまま残すことが求められています。では、専用ソフトを入れないと対応できないのでしょうか。結論から言えば、GoogleドライブやOneDrive、Excelといった手持ちの環境だけでも形を整えることはできます。ただし「できる」と「続けられる」は別の話です。この記事では、ソフトなしで組み立てる具体的な運用手順と、どこまで来たらソフト導入を考えたほうがよいかの分かれ目を整理します。
この記事の結論
- 電子取引データの保存は、改ざん防止の措置(事務処理規程など)とデータを探し出せる状態(ファイル名や索引簿)の両方を用意すれば、GoogleドライブやOneDriveなど手持ちのクラウドドライブでも運用を組み立てられます。
- ソフトを使わない場合は「日付_取引先_金額」の形でファイル名を統一し、改ざん防止に関する事務処理規程を作って備え付けておく方法が、いちばん手数の少ない組み方です。
- 取引件数が増えてファイル名の付け直しや索引簿の入力が追いつかなくなったとき、担当者が複数人になったとき、この二つがソフト導入を検討する分かれ目です。
電子帳簿保存法にソフトを使わないで対応できますか
まず前提を整理します。電子帳簿保存法のうち、すべての事業者に関係してくるのは「電子取引データの保存」です。メール添付のPDF請求書、ウェブサイトからダウンロードした領収書、クラウドサービス上で受け取った支払明細などは、受け取った形のまま、つまりデータとして残すことが求められています。紙に印刷したものだけを保管する運用は、この部分では想定されていません。
この保存にあたっては、大きく分けて「改ざんされていないと言える状態にしておくこと」と「必要なときに探し出して画面や書面で見せられること」の二つが求められます。法令はこの二つを満たす手段としてタイムスタンプや訂正削除履歴の残るシステムを挙げていますが、それだけに限っているわけではなく、社内規程を整える方法も認められています。ここが、ソフトなしでも組み立てられる理由です。
つまり「専用ソフトがないと対応できない」わけではありません。ただし、ソフトが自動でやってくれることを人の手でやることになります。ファイル名を統一する、保存先を一本化する、規程を作って守る。この三つを自分で回せるかどうかが、ソフトなし運用が成立するかどうかの境目になります。
ソフトなしで満たす二つの柱:改ざん防止と検索できる状態
一つ目の柱が改ざん防止です。タイムスタンプの仕組みを持たない環境では、「訂正や削除を行う場合の手順を定めた事務処理規程」を作り、その規程に沿って運用する方法が一般的に案内されています。規程の書式は国税庁のサイトにサンプルが公開されていますので、自社の実態に合わせて社名や担当者名を入れて整えるところから始めるのが早道です。作ったら印刷なりデータなりで備え付け、税務調査などで求められたときに示せるようにしておきます。
二つ目の柱が、データを探し出せる状態にしておくことです。取引年月日、取引金額、取引先という三つの項目で該当のデータにたどり着けること、そしてディスプレイやプリンタで速やかに出力できることが軸になります。専用ソフトの検索機能がなくても、ファイル名にこの三項目を入れておけば、OSやドライブの検索窓から探せます。
なお、一定の規模以下の事業者について検索機能の要件が緩和される取扱いや、対応が間に合わない事情がある場合の猶予に関する取扱いも設けられています。ただし適用の条件は細かく、年度によっても扱いが変わりうる部分です。自社が当てはまるかどうかは、国税庁の最新の資料を確認するか、顧問税理士にご確認ください。
GoogleドライブやOneDriveで組む場合の手順
手順は、保存場所を決める、命名ルールを決める、規程を備える、の順です。まず保存場所を一か所に決めます。GoogleドライブでもOneDriveでも構いませんが、複数のドライブに散らばると探せなくなるので、電子取引データはこのフォルダ、と決め切ってください。フォルダ構成は「年度 → 月」程度の浅い階層が扱いやすく、深くしすぎると入れ間違いが増えます。
次にファイル名です。「20260921_〇〇商事_110000」のように、日付・取引先・金額をアンダースコアでつなぐ形が定番です。日付は西暦8桁で揃えると並び替えたときに時系列になります。金額はカンマを入れず数字だけにしておくと検索でヒットしやすくなります。取引先名は略称と正式名称が混ざらないよう、社内の呼び方を一つに決めておきます。
最後に、改ざん防止のための事務処理規程を作り、同じドライブの分かりやすい場所か、紙で保管します。あわせて、ファイルを受け取ったらいつ・誰がこのフォルダに入れるのかという社内ルールも短く書き添えておくと、担当者が変わったときに運用が崩れにくくなります。GoogleドライブもOneDriveも版履歴が残る機能を備えていますが、機能の詳細や保持される期間はサービスや契約内容によって異なるため、各社の公式サイトで仕様を確認してください。
エクセルのまま保存する方法と索引簿のつくり方
ファイル名をいちいち直すのが負担なら、Excelで索引簿(一覧表)を作る方法があります。表の列に、通し番号・取引年月日・取引先・金額・ファイル名(または保存先)を並べ、データを受け取るたびに1行ずつ足していきます。ファイル自体は受け取ったままの名前でも、索引簿からたどれる状態になっていれば、探し出せる状態を作れます。
索引簿方式が向くのは、請求書の受け取り方がバラバラで名前の付け替えに時間がかかる場合や、経理担当が一人でまとめて処理する場合です。逆に、受け取った人がその場でフォルダに放り込む運用にしたいなら、ファイル名方式のほうが向きます。どちらか一方に決め、両方を中途半端に併用しないことが長続きのコツです。
なお、自社が作成した見積書や請求書をExcelのまま保存する場合も、相手にデータで送ったのであれば電子取引に当たり、送った側もそのデータを残すことになります。Excelファイルをそのまま保存するか、PDFにして保存するかは運用しやすいほうで構いませんが、社内で扱いを統一しておきましょう。処理の仕方に迷う取引があれば、税理士にご確認ください。
USB保存やローカル保存でもいいのですか
保存先の媒体そのものについて、クラウドでなければならないという決まりがあるわけではありません。社内のパソコンのローカルフォルダやUSBメモリ、外付けハードディスクでも、改ざん防止の措置があり、必要なときに探して出力できる状態なら、形としては成り立ちます。実務上の問題は、法令要件よりも「失われやすさ」です。
USBメモリは紛失や破損が起きやすく、担当者の机の引き出しに入ったまま所在が分からなくなることもあります。パソコンのローカル保存も、その1台が壊れたら終わりです。保存が求められる期間は年単位で続きますから、その間ずっと読み出せることを前提に考えると、バックアップのない単一媒体はおすすめしにくい選択です。ローカルを主にするなら、クラウドに複製を置くなど二重化を検討してください。
もう一つ、税務調査の場面では、データのダウンロードの求めに応じられることが要件になる場合があります。特定の担当者しかアクセスできない場所、あるいはパスワードが引き継がれていない場所に置いてあると、そこで詰まります。保存場所とアクセス権は、社長と経理担当の少なくとも二人が把握している状態にしておきましょう。
ソフトなし運用の限界はどこに来るか
ソフト導入を考える分かれ目は三つあります。一つ目は件数です。月に扱う電子データが数件のうちはファイル名の付け替えも苦になりませんが、増えてくると名前の付け忘れ、金額の打ち間違い、入れ忘れが出始めます。「先月分の索引簿が埋まっていない」が二か月続いたら、手作業の限界と考えてよいタイミングです。
二つ目は人数です。担当が一人ならルールは頭の中にありますが、二人、三人と増えると命名の揺れが必ず出ます。誰が入れても同じ形になる仕組みが要るなら、取り込みと項目入力を支えてくれるツールのほうが結果的に楽になります。三つ目は、会計ソフトとの二重入力です。同じ請求書を索引簿と会計ソフトの両方に打ち込んでいるなら、その手間はソフト側に寄せられる余地があります。
ツールを選ぶときは、機能の多さではなく「自社の受け取り方に合うか」で見てください。メール添付が中心なのか、取引先のウェブサイトからダウンロードする形が多いのか、紙とデータが混在しているのか。この違いで合うものが変わります。料金や対応範囲は各社の公式サイトで最新の情報を確認し、会計ソフトを使っているなら、そちらとの連携の有無も併せて見ておくと選びやすくなります。
ここまでの組み立て方は一般的な考え方の範囲です。自社の取引形態で何が電子取引に当たるのか、規程の内容が実態に合っているか、緩和や猶予の取扱いが使えるかといった個別の判断は、顧問税理士に相談しながら決めることをおすすめします。制度の詳細な要件は国税庁の公表資料もあわせてご確認ください。
よくある質問
メールで届いた請求書を印刷して紙で保管するだけでは足りませんか
データで受け取ったものは、データのまま残すことが求められています。紙の控えを社内で使うのは構いませんが、それだけに置き換える運用は想定されていません。元のPDFやファイルを保存先に残したうえで、必要に応じて印刷する形にしておくと安心です。
Googleドライブに入れておけば、それだけで要件を満たしますか
保存場所として使えますが、それだけでは足りない部分があります。改ざん防止の措置(事務処理規程を備えるなど)と、日付・取引先・金額で探し出せる状態づくりを、あわせて用意してください。ファイル名の統一かExcelの索引簿のどちらかで、探せる状態を作るのが実務的です。
事務処理規程はどこで手に入りますか
国税庁のウェブサイトにサンプルが公開されており、それをもとに自社用に整える方法が広く使われています。社名や責任者、訂正削除の手順を自社の実態に合わせて書き換え、備え付けておきます。内容が自社の運用と合っているかは、税理士に確認しておくと安心です。
スキャナ保存もやらないといけませんか
紙で受け取った書類をスキャンしてデータで保存する取扱いは、選べる制度という位置づけで、紙のまま保管する選択も残っています。まず優先すべきは、データで受け取ったものをデータで残す電子取引の部分です。ペーパーレス化を進めたい場合に、次の段階として検討すると整理しやすくなります。