アルバイトを雇うときの手続き|保険加入の判断と法人・個人事業主の違い
はじめてアルバイトを雇うとき、いちばん迷うのは「保険に入れるのかどうか」です。ここを間違えると、あとから遡って加入手続きや保険料の精算が必要になることもあります。この記事では、採用前の準備から労働条件の明示、雇用保険・社会保険の加入判断、法人と個人事業主で変わるところまで、実際に手を動かす順番で整理します。学生アルバイトや短期アルバイトのような、判断に迷いやすいケースも取り上げます。
この記事の結論
- アルバイトを雇うときは、労働条件を書面などで明示し、労働者名簿・賃金台帳・出勤簿を用意したうえで、勤務時間に応じて雇用保険・社会保険の加入要否を判断する、という順番で進めます。
- 雇用保険は週の所定労働時間と雇用見込み期間、社会保険は労働時間・日数が通常の従業員と比べてどの程度かが基本の判断軸で、いずれも要件は改正されることがあるため最新の情報を確認します。
- 法人は社長ひとりでも社会保険の適用事業所になるのが原則で、個人事業主は業種と人数によって扱いが変わるため、同じアルバイトでも加入の手続き先が違うことがあります。
アルバイトを雇う前に、何を決めて何を用意する?
採用の連絡をする前に、まず労働条件そのものを決めます。決めるのは、仕事の内容、勤務する場所、働き始める日、契約期間(期間の定めがあるかどうか)、始業・終業の時刻、休憩、休日、賃金の額と計算方法、支払日、退職に関する決まりです。ここが曖昧なまま働き始めると、シフトや残業の扱いでもめる原因になります。
次に、賃金の額が勤務地の最低賃金を下回っていないかを確認します。最低賃金は都道府県ごとに定められ、改定もあるため、厚生労働省や各労働局の公表内容で最新額を確認してください。深夜や法定時間を超える労働には割増賃金が必要になる点も、シフトを組む前に押さえておきます。
あわせて、法定三帳簿と呼ばれる労働者名簿・賃金台帳・出勤簿(労働時間の記録)を用意します。アルバイトでも作成・保存の対象で、人数が少ないうちは表計算ソフトでも足りますが、人が増える見込みがあるなら最初から勤怠と給与のツールを入れておくと後が楽です。
採用が決まったらすぐやる手続きの順番
最初は労働条件の明示です。労働条件通知書、または雇用契約書に労働条件を書き込んだ形で、働き始める前に本人へ渡します。書面が原則ですが、本人が希望した場合はメールなど電子的な方法での明示も認められています。控えを会社側でも保管しておきます。
次に、給与計算と税務の準備です。本人から扶養控除等申告書を提出してもらい、源泉徴収の区分を決めます。掛け持ちで働く人はどちらの勤務先に提出しているかで税額表の欄が変わるため、採用時に確認しておくと、年末調整の時期に慌てずに済みます。マイナンバーは、保険や源泉徴収の手続きで必要になる場面があるため、利用目的を伝えたうえで取得し、取扱いのルールを決めて保管します。
そのうえで保険の加入判断に進みます。雇用保険に該当するなら「雇用保険被保険者資格取得届」をハローワークへ、社会保険に該当するなら「被保険者資格取得届」を年金事務所(または健康保険組合)へ提出します。いずれも提出期限が定められているので、入社日が決まった時点でカレンダーに入れておくのが確実です。
雇用保険に入れるかどうかの判断基準
雇用保険は、週の所定労働時間と雇用の見込み期間が基本の判断軸です。一般に、週の所定労働時間が一定時間以上あり、継続して雇用される見込みがある人が対象になります。シフト制で週によって差がある場合は、契約上の所定労働時間や、実際の平均的な勤務実態をもとに判断することになります。
ここで迷いやすいのが「短時間だけど長く働く人」と「フルタイムだけど短期間の人」です。前者は週の所定労働時間が基準に届くかを、後者は雇用見込み期間が基準に届くかを見ます。どちらか一方でも要件を満たさなければ対象外と扱われることがありますが、契約更新の見込みがあると判断が変わる場合もあります。
なお、雇用保険の加入要件は法改正で見直されることがあります。判断に迷うときは、管轄のハローワークに勤務条件を伝えて確認するのが早道です。窓口では実際の契約書やシフト表をもとに教えてもらえます。
社会保険(健康保険・厚生年金)に入れるかどうか
社会保険は、まず事業所が適用事業所かどうかを確認し、そのうえで個人ごとに判断します。基本は、1週間の所定労働時間と1か月の所定労働日数が、同じ事業所の通常の従業員と比べて一定割合以上であれば加入対象になる、という考え方です。フルタイムに近い働き方をしているアルバイトは、名称がアルバイトでも加入の対象になり得ます。
これに加えて、一定規模の事業所では、週の所定労働時間が短くても、賃金・勤務時間・雇用期間の見込み・学生でないことなどの条件を満たす人が加入対象になる仕組みがあります。この適用範囲は段階的に広げられてきており、対象となる企業規模の基準も変わってきました。自社が対象かどうかは、日本年金機構の資料や年金事務所への確認で最新の内容を押さえてください。
判断の順番としては、①事業所が適用事業所か→②通常の従業員と比べた労働時間・日数で該当するか→③該当しない場合、短時間労働者としての要件に当てはまるか、の3段階で見ると整理しやすくなります。該当するのに手続きをしていなかった場合、遡って加入と保険料の精算を求められることがあるため、早めの確認をおすすめします。
法人と個人事業主で、手続きはどう違う?
法人の場合、社長ひとりの会社でも社会保険の適用事業所になるのが原則です。そのため、アルバイトを雇ったときは、加入要件に当てはまるかを事業所として判断し、年金事務所へ届け出る流れになります。すでに適用事業所になっているぶん、新しく従業員が増えたときの手続きは資格取得届が中心です。
個人事業主の場合は、業種と常時使用する従業員の人数によって、社会保険の強制適用になるかどうかが変わります。強制適用にならない事業所でも、要件を満たして手続きをすれば任意で適用事業所になれる制度があります。自分のところがどちらかは、業種と人数を年金事務所に伝えて確認してください。
一方、労災保険と雇用保険(労働保険)は、法人・個人事業主を問わず、人を1人でも雇えば原則として加入の対象です。はじめて人を雇うときは、労働基準監督署への保険関係成立届と、ハローワークへの適用事業所設置届・資格取得届が必要になります。「法人だから」「個人だから」で労働保険の扱いが変わるわけではない、と覚えておくと混乱しません。
学生アルバイト・短期アルバイトの注意点
学生アルバイトは、昼間部の学生であれば雇用保険の対象外と扱われるのが基本ですが、通信制や定時制など例外とされる区分もあります。社会保険の短時間労働者の要件でも、学生は対象外とされる扱いがあります。ただし、労働時間が通常の従業員と同程度なら、学生でも社会保険の対象になり得ます。「学生だから全部対象外」と決めつけないことが大切です。
扶養の範囲内で働きたいという申し出もよく受けます。税の扶養と社会保険の扶養は基準が別で、年によって制度の見直しもあります。会社としてできるのは、シフトの希望を聞いて所定労働時間を調整することと、正確な給与明細と源泉徴収票を渡すことです。個別の税額や扶養判定の結論は、税理士や税務署に確認するよう案内するのが無難です。
短期アルバイトは、雇用見込み期間が短いことで雇用保険の対象外になる場合がありますが、労災保険は期間の長短にかかわらず対象です。また、期間の定めのある契約では、契約期間と更新の有無を労働条件通知書に明記しておきます。「とりあえず1か月」で始めて何度も更新すると、扱いが変わることがあるため、更新のたびに条件を書面で残しておいてください。
迷ったときの相談先と、ひとりで抱えないための線引き
自社だけで判断しやすいのは、労働条件通知書の作成、法定三帳簿の整備、最低賃金の確認あたりです。一方で、保険の加入判断、シフト制での所定労働時間の決め方、遡及加入が必要かどうかの判断は、勤務実態を見ないと結論が出ない領域です。
制度の要件は改正が続いている分野でもあります。雇用保険や社会保険の適用範囲、労働条件明示のルールなどは、厚生労働省・日本年金機構・ハローワークの公表資料で最新の内容を確認してください。窓口での相談は無料で受けられるものが多く、契約書やシフト表を持参すると具体的な回答が得られやすくなります。
はじめて人を雇うとき、あるいはアルバイトの人数が増えてきたときは、社会保険労務士への相談を検討してください。就業規則の要否や労働保険の年度更新、給与計算の体制づくりまで含めて設計してもらえます。源泉徴収や年末調整、外注費との区分など税務にかかわる部分は、税理士にあわせてご確認ください。
よくある質問
アルバイトでも労働条件通知書は必要ですか?
雇用契約を結ぶ以上、アルバイトやパートでも労働条件の明示は必要とされています。書面での交付が原則ですが、本人が希望する場合はメールなど電子的な方法も認められています。会社側でも控えを保管しておきましょう。
週何時間から保険に入れる必要がありますか?
雇用保険は週の所定労働時間と雇用見込み期間、社会保険は通常の従業員と比べた労働時間・日数が基本の判断軸になります。具体的な時間数の基準は改正されることがあるため、厚生労働省や日本年金機構の最新資料、または管轄のハローワーク・年金事務所でご確認ください。
個人事業主がアルバイトを雇う場合も手続きは必要ですか?
人を1人でも雇えば、労災保険をはじめとする労働保険の手続きは個人事業主でも原則必要です。社会保険については業種と常時使用する従業員数によって扱いが変わるため、年金事務所に事業内容を伝えて確認してください。
1日だけの短期アルバイトでも手続きはいりますか?
雇用保険は雇用見込み期間が短いと対象外になる場合がありますが、労災保険は期間の長短にかかわらず対象です。また、給与の支払いには源泉徴収の検討が必要になるため、扱いに迷う場合は税理士にご確認ください。