雇用契約書の保管期間と控えの扱い|何部作り、誰が持つか

・採用・労務・会社のはじめかた編集部(監修:田中 祐介)

はじめて人を雇うとき、雇用契約書を「何部つくって、誰が原本を持ち、いつまで取っておくのか」で手が止まる方は多いものです。実務としては、二部つくって双方が一部ずつ持ち、会社側は退職後も一定期間そのまま保管する、という形が基本になります。この記事では、保管期間の考え方、本人控えの渡し方、退職後の廃棄の判断、電子で交付・保存するときの注意点を、順番どおりに整理します。

この記事の結論

  • 雇用契約書や労働条件通知書は、労働基準法上「労働関係に関する重要な書類」として一定期間の保存が求められており、現在は5年(当分の間3年)という取扱いが示されているため、少なくとも退職から5年は残しておく運用が安全です。
  • 雇用契約書は同じ内容のものを二部作成し、双方が署名・押印したうえで会社と本人が一部ずつ原本を持つのが一般的で、本人に渡すのは「控え」ではなく同等の原本と考えます。
  • 退職したからといってすぐ捨てず、退職日を起算点として保存期間が過ぎ、賃金や労働時間をめぐる問い合わせの可能性がなくなってから廃棄するのが実務的な判断です。

雇用契約書の保管期間は何年?起算日はいつから数えるか

労働基準法では、労働者名簿、賃金台帳、雇入れや退職に関する書類など「労働関係に関する重要な書類」について、一定期間の保存が求められています。保存期間は法改正により5年とされ、当分の間は3年という経過的な取扱いが示されています。つまり「最低でも3年、できれば5年」が現時点での実務の目安になります。

迷ったら、社内ルールは5年に揃えてしまうのが分かりやすい方法です。3年と5年で書類ごとに期限を変えると、棚卸しのたびに判断が必要になり、かえって手間が増えます。保管スペースに余裕があるなら、期間を長めに一本化したほうが管理コストは下がります。

起算日は「作成した日」ではなく、その書類に関する労働関係が終わった日、つまり退職日を基準に考えるのが一般的です。在籍が10年続いた人なら、入社時の雇用契約書も退職日から数えて保存することになります。細かい起算日の扱いは書類の種類によって整理が分かれるため、判断に迷う場合は社会保険労務士に確認してください。

雇用契約書は何部つくる?二部作成と本人控えの基本

雇用契約書は、同じ内容の書面を二部作成し、会社と本人が双方に署名・押印したうえで一部ずつ保持するのが基本形です。どちらも同じ効力を持つ原本なので、本人が持つものを「控え」と呼ぶことはありますが、写し(コピー)で済ませる想定ではありません。二部とも正本、と理解しておくと迷いません。

一方、労働条件通知書は会社から労働者への一方向の通知なので、署名欄がなく一部だけ渡す形もあります。この場合、会社側は交付した内容を再現できるよう、同じ内容の写しかデータを保存しておきます。渡しっぱなしで手元に何も残っていないと、後から「聞いていた条件と違う」という話になったときに確認ができません。

実務では「労働条件通知書兼雇用契約書」という一枚にまとめた書式を使い、二部作成して双方が署名する形が扱いやすいです。通知と合意の両方を一度に済ませられ、保存すべき書類も一種類に減ります。小さな会社ほど、書式の数は絞ったほうが運用が続きます。

渡し方の手順|いつ、何を用意して、どう記録するか

用意するのは、入社日までに確定した労働条件を書き込んだ書面二部です。就業の場所と業務内容、始業終業の時刻、休憩・休日・休暇、賃金の決定方法と支払日、退職に関する事項など、明示が求められる項目を埋めます。有期契約なら契約期間と更新の有無・基準も入れます。

渡すタイミングは、入社日当日よりも前が理想です。内定通知の後、入社日までに本人が内容を読み、質問できる時間があるほうがトラブルになりません。当日に初めて見せて即サインを求める進め方は、後から「よく読まずに署名した」という主張を招きやすい形です。

署名・押印が済んだら、その場で一部を本人に渡します。渡したこと自体を残したい場合は、受領欄を設けるか、社内の入社チェックリストに交付日を記録します。後日郵送する場合も、いつ誰宛に送ったかをメモしておくと、あとで探す手間が減ります。

両面印刷・裏面の特約は有効か|書面のつくり方の注意

労働条件通知書や雇用契約書を裏表(両面)で印刷すること自体は珍しくありませんが、重要な条件が裏面だけに書かれていて、本人が気づかないまま署名した、という状況は避けたいところです。表面の末尾に「裏面の条項も契約内容の一部です」と一文入れ、ページ番号を振っておくと安全です。

裏面や別紙に置きがちなのが、服務規律、秘密保持、退職時の手続などの条項です。これらは就業規則にも書かれていることが多いので、契約書側では「詳細は就業規則による」と参照する形にして、重複と食い違いを減らすほうが管理しやすくなります。就業規則と契約書の内容が食い違うと、扱いをめぐって争いになることがあります。

複数枚にわたる契約書は、ホチキス留めと割印(契印)で差し替えを防ぐのが一般的です。ここまで厳密にするかは会社の判断ですが、有期契約の更新を繰り返す職場や、条件を個別に決める職種では、書式を固めておくと後が楽になります。

退職後はいつ捨てていい?廃棄の判断と手順

退職したその日に廃棄してよい書類ではありません。保存期間は退職日を起算点として数えるので、少なくともその期間が過ぎるまでは保管します。加えて、未払い賃金や労働時間をめぐる問い合わせ、離職票や在籍証明の再発行依頼など、退職後に元の条件を確認する場面は意外とあります。

廃棄の実務としては、年に一度、たとえば決算後や年度替わりに「退職者ファイル」を見直し、保存期間を過ぎたものをまとめて処分する運用が続けやすいです。その際、退職日と廃棄予定年をファイルの背表紙やインデックスに書いておくと、毎回中身を開かずに判断できます。

処分するときは、氏名・住所・賃金などの個人情報が含まれるため、シュレッダーや溶解処理など復元されない方法をとります。なお、係争中や、当局からの調査・照会を受けている書類は、期間が過ぎていても残しておく判断が必要になる場合があります。迷う場合は破棄前に社会保険労務士や弁護士に相談してください。

紙と電子、どちらで保存するか|判断の順番

まず確認したいのは「本人への交付方法」です。労働条件の明示は書面交付が原則ですが、本人が希望した場合にメールやSNSなど出力して書面化できる方法で行える取扱いが認められています。電子で渡すなら、本人の希望を確認した記録と、送信した内容そのものを残しておくことが前提になります。要件の詳細は厚生労働省の資料で最新の内容を確認してください。

次に、社内での保存方法です。紙で受け取った契約書をスキャンしてクラウドに置く運用は、検索性の面では便利です。ただし電子だけにする場合は、誰が閲覧・編集できるかの権限設定と、バックアップの所在をあらかじめ決めておく必要があります。人事書類は機微な情報なので、全社員が見られる共有フォルダに置くのは避けたいところです。

判断の順番としては、①人数が少なく入退社も少ない→紙のファイル一冊で十分、②拠点が複数ある、または在宅で手続する→電子を軸に紙は原本のみ保管、③電子契約サービスで締結している→締結データの保存場所と退職者分の管理ルールを先に決める、という見方が実務的です。電子帳簿保存法は主に税務関係書類の話で、雇用契約書がそのまま対象になるわけではありませんが、社内の保存ルールを一本化したい場合は税理士にも相談しておくと整理しやすくなります。

契約内容を変えたときの書類の残し方

昇給、契約更新、勤務時間の変更など、条件が変わったときは、変更後の内容を書面で残します。元の雇用契約書を修正液で直したり、上書き保存したりすると、いつ何が変わったのかが追えなくなります。変更合意書や、新しい労働条件通知書を追加する形が扱いやすい方法です。

このとき、古い契約書を捨てないことが大切です。過去の条件がどうだったかは、賃金の計算や退職時の精算で確認が必要になることがあります。入社時から現在までの書類を時系列で綴じておくと、経緯が一目で分かります。

有期契約を繰り返し更新している場合は、更新のたびに通算期間が積み上がり、無期転換をはじめとする制度の適用に関わってきます。契約期間の履歴が分かる形で保管しておくと、判断が必要になった時点で慌てずに済みます。取扱いに迷う場面では、社会保険労務士に確認したうえで運用を決めてください。

よくある質問

雇用契約書の保管期間は3年ですか、5年ですか?

労働基準法の保存期間は5年とされ、当分の間は3年という経過的な取扱いが示されています。最低ラインに合わせるより、社内ルールを5年に統一しておくほうが管理は簡単です。書類ごとの細かい扱いは社会保険労務士に確認してください。

労働条件通知書は本人に渡したら会社に何も残らなくていいのですか?

渡した内容を会社側で再現できるよう、同じ内容の写しかデータを残しておくのが実務です。後から条件の食い違いを指摘されたときに、確認できる資料が手元にないと説明が難しくなります。通知書兼雇用契約書として二部作成する形にすると、保存も自然にできます。

退職した人の雇用契約書はすぐ捨てていいですか?

退職日を起算点とする保存期間が過ぎるまでは残しておくのが基本です。在籍証明の依頼や賃金に関する問い合わせが退職後に来ることもあるため、年に一度まとめて見直し、期間経過分を復元できない方法で廃棄する運用が続けやすいです。

本人がなくした場合、控えを再発行できますか?

会社側の原本をもとに、写しを交付する対応が一般的です。再発行であることが分かるように、交付日を記録しておくと後の混乱を防げます。再発行の可否や方法を社内ルールとして決めておくと、担当者が替わっても対応がぶれません。

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