従業員が退職するときの社会保険の手続き|資格喪失届と任意継続の案内
従業員が辞めるとき、会社側がやることは意外と多くありません。ただ、期限が短く、しかも「本人がその後どうするか」に直結する手続きなので、抜けると退職者に迷惑がかかります。この記事では、退職が決まってから完了までを時系列で整理し、あわせて本人に何を案内すればよいかをまとめます。
この記事の結論
- 従業員が退職したときは、健康保険・厚生年金保険の資格喪失届を事実発生から5日以内に、雇用保険の資格喪失届を10日以内に届け出るのが原則です。
- 資格喪失届には本人と扶養家族の健康保険証の返却が必要になるため、退職日までに回収するか、返却方法を本人に伝えておきます。
- 退職後の健康保険は、任意継続・国民健康保険・家族の被扶養者のいずれかを本人が選ぶため、会社は選択肢と期限だけを案内すれば足ります。
従業員 退職 社会保険 手続きの全体像|会社がやることは3系統
退職時の手続きは、大きく「社会保険(健康保険・厚生年金保険)」「雇用保険」「税金(源泉徴収票・住民税)」の3系統に分かれます。提出先も期限も別なので、ひとまとめに考えると抜けが出ます。まずこの3つを頭の中で分けるところから始めてください。
社会保険は年金事務所(健康保険組合に加入している場合は組合にも)、雇用保険はハローワーク、住民税は市区町村が窓口です。社会保険の届け出は事実発生から5日以内、雇用保険は退職日の翌日から10日以内が原則とされています。どちらも期限が短いため、退職日が決まった時点で書類の準備を始めるのが現実的です。
なお、社会保険に加入していない従業員(加入要件を満たしていなかった人)の場合は、雇用保険と税金の手続きだけになります。まずその人がどの保険に入っていたかを、加入時の控えや給与明細の控除項目で確認しておきましょう。
社会保険 喪失 手続き 必要書類と提出のタイミング
健康保険・厚生年金保険の手続きは、「被保険者資格喪失届」を年金事務所(事務センター)に提出します。添付するのは、本人と被扶養者ぶんの健康保険証です。保険証を回収できないときは、その事情を記した書類を添えて届け出る扱いがあるため、回収できない見込みが立った時点で年金事務所に相談してください。
資格喪失日は「退職日の翌日」になるのが原則です。ここを退職日そのものと書いてしまう間違いが多いので、記入時に確認します。月末退職か月末以外の退職かで、最後の月の保険料の扱いが変わることがあるため、給与計算の担当者とも共有しておくと安心です。
雇用保険は「雇用保険被保険者資格喪失届」をハローワークに提出します。本人が失業給付を受ける可能性があるときは「離職証明書(離職票の元になる書類)」もあわせて提出し、発行された離職票を本人に渡します。本人が希望しないと明言している場合でも、後から必要になることがあるため、発行の要否は退職前に確認しておくとやりとりが減ります。
手続きは電子申請(e-Gov やGビズID経由)でも紙でも行えます。ひとり社長や小規模な会社で年に数回しか発生しないなら紙でも回りますが、入退社が続く見込みがあれば電子申請の環境を先に整えておくと、毎回の移動と郵送の手間が減ります。
退職日が決まったら|いつ・何を回収して・どこに出すか
まず退職日の1〜2週間前までに、本人に返却してもらうものを伝えます。健康保険証(本人と扶養家族ぶん全員)、社員証、貸与品、そして通勤定期があればその扱いです。保険証は退職日の翌日以降は使えなくなるため、この点も口頭とメールの両方で伝えておくと誤使用を防げます。
次に退職日の当日または直後、保険証を回収します。最終出社日と退職日がずれる場合(有給消化など)は、郵送で返してもらう段取りを先に決めておきます。返送先と締切日を書いたメモを渡しておくと、回収漏れがぐっと減ります。
退職後は、5日以内に社会保険の資格喪失届、10日以内に雇用保険の資格喪失届と離職証明書を提出します。並行して、住民税の特別徴収に切り替えが必要なら市区町村へ異動届を出し、年内に再就職する人のために源泉徴収票を作成して本人に渡します。ここまでが会社側の一連の流れです。
社会保険 任意継続 手続き 会社は何をする?本人への案内内容
退職後の健康保険について、本人が選べるのはおおむね3つです。1つ目は前の会社の健康保険を続ける「任意継続」、2つ目は住んでいる市区町村の国民健康保険、3つ目は配偶者など家族の健康保険の被扶養者になることです。どれを選ぶかは本人の判断で、会社が決めるものではありません。
任意継続には、退職前に一定期間の被保険者期間があることと、退職日の翌日から定められた日数以内に本人が申し出ることという条件があります。この申請は原則として本人が協会けんぽの支部や健康保険組合に行うもので、会社が代わりに出すものではありません。会社側としては「期限が短いこと」「申請先は加入していた保険者であること」を伝えるのが主な役割です。
保険料は、在職中は会社と折半でしたが、任意継続では本人の負担割合が変わります。一方、国民健康保険の保険料は前年の所得や自治体によって決まります。どちらが負担が軽いかは人によって異なるので、「両方の見込み額を調べて比べてください」と案内し、金額の断定はしないのが無難です。具体的な保険料は、加入していた保険者と市区町村の窓口・公式サイトで確認してもらいましょう。
家族の被扶養者になる道もあります。退職後の収入見込みなどの要件があるため、配偶者の勤務先を通じて確認してもらう形になります。会社としては、この3択と、それぞれの問い合わせ先を1枚の案内文にまとめて渡しておくと、退職後の電話が減ります。
パート退職 社会保険 手続き・懲戒解雇のときはどう違う?
パートやアルバイトでも、社会保険に加入していたなら手続きは正社員と同じです。逆に、加入要件を満たしておらず社会保険に入っていなかった人は、資格喪失届は不要で、雇用保険に入っていれば雇用保険の手続きだけになります。まず給与明細の控除欄で、健康保険料・厚生年金保険料が引かれていたかを確認するのが早道です。
雇用保険は、週の所定労働時間や雇用の見込み期間などの要件で加入が決まります。短時間勤務の人は加入していないこともあるので、加入状況を台帳や控えで確認してから手続きの要否を判断してください。要件の詳細は厚生労働省やハローワークの資料で最新の内容を確認しましょう。
懲戒解雇の場合も、社会保険・雇用保険の資格喪失手続き自体は通常の退職と変わりません。違いが出やすいのは離職証明書の離職理由の記載で、ここは失業給付の取り扱いに影響することがあります。事実関係を記録に基づいて記載し、判断に迷う点は社会保険労務士やハローワークに確認してください。
懲戒解雇では、保険証が返ってこない、連絡がつかないといった事態も起こりがちです。回収できない見込みが早い段階で分かったら、そのまま放置せず年金事務所に事情を伝え、必要な添付書類の扱いを確認しておくと、期限内の届け出がしやすくなります。
社会保険 喪失 手続き 遅れたときの対応
期限を過ぎてしまっても、届け出ができなくなるわけではありません。気づいた時点ですぐ、年金事務所やハローワークに連絡し、遅れた事情を伝えたうえで提出します。遅延理由書などの追加書類を求められることがあるため、いつ退職したか、なぜ遅れたかを整理してから連絡すると話が早く進みます。
遅れて困るのは、会社よりも退職した本人です。資格喪失の記録が反映されないと、国民健康保険への切り替えや任意継続の申請、失業給付の手続きが進まないことがあります。本人から「手続きはどうなっていますか」と問い合わせが来る前に、こちらから進捗を連絡しておくとトラブルになりにくいでしょう。
再発を防ぐには、退職の申し出を受けた時点で使うチェックリストを1枚作っておくことです。「保険証の回収」「資格喪失届(5日)」「雇用保険の喪失届と離職証明書(10日)」「住民税の異動届」「源泉徴収票」の5項目に、担当者と期限を書き込む形で十分機能します。
迷ったら社会保険労務士に確認を
退職手続きは、届け出そのものは定型的ですが、離職理由の書き方、最後の月の保険料の扱い、有給消化と退職日の関係など、判断が必要な場面が混ざります。ここを自己判断で進めると、後から訂正や再提出が発生し、かえって手間がかかることがあります。
入退社が続く時期や、懲戒解雇・休職からの退職など事情が複雑なケースでは、社会保険労務士に一度相談し、自社の手順を固めておくことをおすすめします。給与・税金にまたがる論点(源泉徴収票や年末調整の扱いなど)は税理士にも確認しておくと安心です。制度の要件や様式は改正されることがあるため、最新の内容は日本年金機構・厚生労働省・加入している健康保険組合の公式資料でご確認ください。
よくある質問
従業員が退職したら、社会保険の手続きはいつまでにすればいいですか。
健康保険・厚生年金保険の被保険者資格喪失届は、事実発生から5日以内に年金事務所へ提出するのが原則です。雇用保険の資格喪失届は退職日の翌日から10日以内にハローワークへ提出します。期限が短いため、退職日が決まった段階で書類の準備を始めておくと安心です。
健康保険証が回収できないときはどうすればいいですか。
退職者に郵送での返却を依頼したうえで、それでも回収できない見込みであれば、その事情を記した書類を添えて届け出る扱いがあります。回収できないことが分かった時点で年金事務所や健康保険組合に連絡し、必要な添付書類を確認してください。回収待ちで届け出自体を遅らせないことが大切です。
任意継続の手続きは会社が代わりに行うのですか。
任意継続の申し出は、原則として退職した本人が加入していた保険者(協会けんぽの支部や健康保険組合)に対して行います。会社の役割は、任意継続・国民健康保険・家族の被扶養者という選択肢と、申請期限が短いことを案内することです。保険料の見込み額は、それぞれの窓口や公式サイトで本人に確認してもらいましょう。
パートの従業員が辞めた場合も同じ手続きが必要ですか。
社会保険に加入していたパートの方であれば、手続きは正社員と同じです。加入要件を満たしておらず社会保険に入っていなかった場合は資格喪失届は不要で、雇用保険に加入していれば雇用保険の手続きのみとなります。まず給与明細の控除欄で加入状況を確認してください。