定款の本店所在地の書き方|どこまで記載するかと住所変更時の扱い

・会社設立・登記・会社のはじめかた編集部(監修:田中 祐介)

会社をつくるとき、定款の「本店の所在地」を市区町村までにするか、番地まで書くかで手が止まる人は多いです。どちらでも定款は作れますが、あとで事務所を移したときの手続きの重さが変わります。この記事では、どちらを選ぶかの判断基準と、引っ越しが起きたときに何をするのかを、順番に整理します。

この記事の結論

  • 定款の本店所在地は、市区町村などの最小行政区画までの記載でも、番地まで書く記載でも作成できます。
  • 同じ市区町村内での移転が起こりそうなら最小行政区画までにしておくと、移転時に定款変更が不要になる場合が多いです。
  • 定款の書き方にかかわらず、実際に本店を移したときは法務局への本店移転登記が必要になります。

定款の本店所在地は「どこまで」書けばいいのか

会社法では、定款に「本店の所在地」を記載することが求められています。ここでいう所在地は、最小行政区画までで足りると解されており、実務では「当会社は、本店を東京都渋谷区に置く」のように市区町村までで書く例が多く見られます。

一方で、「当会社は、本店を東京都渋谷区◯◯一丁目2番3号に置く」と番地まで書くこともできます。どちらの書き方でも定款としては成立し、公証人の認証(株式会社の場合)も受けられるのが一般的です。

つまりこれは「正解が一つある論点」ではなく、将来の移転をどれくらい見込むか、という運用の選択です。まずはその前提を押さえておくと、判断しやすくなります。

最小行政区画までと番地まで、どちらを選ぶかの判断順

迷ったら、次の順に見てください。第一に、今の事務所を数年以内に移す可能性があるか。自宅で始めて将来オフィスを借りる予定がある、シェアオフィスを使っている、という場合は移転の可能性が高い側です。第二に、移すとしたら同じ市区町村内にとどまりそうか、別の市区町村に出そうか。第三に、定款変更の手続き(株主総会の決議と議事録の作成)をその都度回せる体制かどうか。

この三つを見たうえで、同じ市区町村内での移転がありそう、または移転の見込みが読めないなら、最小行政区画までの記載にしておくのが扱いやすい選択です。定款上の記載が「渋谷区」のままなら、区内で番地が変わっても定款の文言は変わらないため、定款変更の手続きを省ける場面が増えます。

逆に、自社ビルを持っている、長期の賃貸借契約で当面動かない、といった事情があるなら番地まで書いても支障は少ないです。ただし番地まで書いた場合、同じ市区町村内の移転でも定款変更が必要になる点は理解しておきましょう。

政令指定都市や東京23区ではどう書くか

政令指定都市では、最小行政区画は「区」までと扱われるのが一般的です。たとえば横浜市の場合は「神奈川県横浜市西区」まで、大阪市なら「大阪府大阪市北区」までを書く形になります。市までにとどめる書き方については扱いが分かれることがあるため、区まで書いておくほうが無難です。

東京23区の場合は、「東京都渋谷区」のように都と区を書きます。政令指定都市のような「市」が間に入らない点が違いですが、考え方は同じです。

町村の場合は「◯◯県◯◯郡◯◯町」のように郡を含めて書きます。郵便の宛名では郡を省くことがありますが、定款では行政区画としての正式な表記に合わせておくと、登記の場面で手戻りが起きにくくなります。

設立時にやること|定款と発起人決定書の役割分担

最小行政区画までで定款を作った場合、登記申請では具体的な番地まで決める必要があります。そこで、発起人(または設立時取締役)が本店の具体的な所在場所を決めた旨の書面を作り、登記の添付書類とするのが一般的な流れです。名称は「発起人決定書」「本店所在場所決議書」など、司法書士や法務局の様式によって呼び方が異なります。

手順としては、①定款に本店所在地を最小行政区画まで記載する、②株式会社なら公証役場で定款認証を受ける、③発起人決定書などで具体的な番地を決める、④資本金の払込みなど他の準備と合わせて、管轄の法務局に設立登記を申請する、という順になります。合同会社は定款認証が不要なため、②が省かれます。

番地まで定款に書いた場合は、③の書面が不要になることがあります。書類が一枚減るのは利点ですが、そのぶん移転時の負担が増えるトレードオフだと考えてください。

本店を移転するときの手続き|定款変更が要る場合・要らない場合

まず切り分けます。定款に市区町村までしか書いておらず、移転先が同じ市区町村内なら、定款の文言は変わりません。この場合は取締役の決定(取締役会設置会社なら取締役会決議)で新しい所在場所を決め、法務局に本店移転登記を申請する流れになります。

定款に番地まで書いていて移転する場合、または市区町村をまたいで移転する場合は、定款の記載そのものが変わるため、株主総会の特別決議による定款変更が必要になります。決議後に具体的な場所を決め、議事録などを添えて本店移転登記を申請します。なお、管轄の法務局が変わる移転では、申請の扱いが同一管轄内の移転と異なるため、事前に管轄法務局の案内を確認しておくと安心です。

登記は移転の日から一定期間内に申請することとされています。期限を過ぎると過料の対象になることがあるため、引っ越しが決まった時点で登記のスケジュールも並べて考えてください。また、登記のあとには税務署や都道府県・市区町村、年金事務所、労働基準監督署・ハローワークへの異動届出、銀行口座や各種契約先の住所変更も続きます。登記して終わりではない点に注意しましょう。

よくある迷いどころと、決めきれないときの進め方

「自宅を本店にしていいか」という相談はよくあります。登記自体はできることが多い一方で、賃貸借契約や管理規約で事業利用が制限されている場合があるため、契約書の確認が先です。バーチャルオフィスを使う場合も、登記利用が可能なプランかどうかを提供事業者に確認してください。条件やプランは各社の公式サイトで最新の内容を確認するのが確実です。

定款の記載をどちらにするか最後まで決めきれない場合は、最小行政区画までにしておくほうが選択肢を残せます。番地まで書いて得られるのは設立時の書類が一枚減る程度の効果で、移転時のコストのほうが大きくなりやすいためです。

本店所在地の決め方は、登記だけでなく、税務署の管轄、法人住民税の納付先、助成金の申請窓口などにも関わってきます。設立と同時に許認可を取る予定がある業種では、事務所の要件が定められていることもあります。判断に迷う場合や、定款の文言をどう書くか確定させたい場合は、登記の実務に詳しい司法書士に、税務上の取り扱いについては税理士に確認してください。

よくある質問

定款の本店所在地は市区町村までと番地まで、どちらが一般的ですか。

実務では、将来の移転に備えて市区町村(政令指定都市は区)までとする例が多く見られます。番地まで書く方法も認められていますが、同じ市区町村内で移転する場合でも定款変更が必要になる点を踏まえて選んでください。

定款に市区町村までしか書いていない場合、番地はどこで決めるのですか。

設立登記の際に、発起人決定書などの書面で具体的な所在場所を決めて添付するのが一般的な流れです。書面の名称や様式は司法書士や法務局によって異なるため、申請前に管轄法務局の案内を確認すると安心です。

事務所を移転したら、定款の書き換えだけで済みますか。

いいえ。定款の記載にかかわらず、本店を実際に移したときは法務局への本店移転登記が必要です。あわせて税務署や年金事務所などへの届出も生じるため、引っ越しが決まった段階で手続き一覧を作っておくとスムーズです。

定款を修正するには何が必要ですか。

株主総会の特別決議による定款変更が必要で、議事録を作成して保管します。定款変更自体を法務局に届け出るわけではありませんが、登記事項に関わる変更であれば別途登記申請が必要になるため、司法書士に手順を確認してください。

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