法人成り年の年末調整と源泉徴収|個人分と法人分の分け方

・会社設立・登記・会社のはじめかた編集部(監修:田中 祐介)

年の途中で法人成りすると、同じ人が同じ仕事を続けていても、給与を払う「人」は個人事業主から法人に変わります。この切り替わりを事務の上でどう扱うかが、法人成り年の年末調整と源泉所得税でいちばん混乱するところです。この記事では、個人事業分と法人分をどこで区切り、誰が何をいつどこへ出すのかを、順番に沿って整理します。

この記事の結論

  • 法人成りした年は、給与の支払者が個人事業主と法人の2つに分かれるため、源泉所得税の納付や届出はそれぞれ別の支払者として処理するのが基本です。
  • 個人事業を廃業した時点では年末調整を行わず、その時点までの源泉徴収票を交付し、法人側が前の支払者分を含めて年末に精算する流れが一般的ですが、個別の扱いは税理士や所轄税務署にご確認ください。
  • 給与支払報告書は翌年1月末までに従業員の1月1日時点の住所地の市区町村へ提出し、住民税の特別徴収義務者も個人事業から法人へ切り替える届出が必要です。

法人成りした年の年末調整は、個人事業分と法人分をどう分ける?

まず前提として、個人事業主と法人は税務上は別の人格として扱われます。年の途中で法人成りすると、1月から廃業日までは「個人事業主が支払った給与」、法人設立後は「法人が支払った給与」となり、源泉徴収義務者が途中で入れ替わることになります。同じ人が同じ机で同じ仕事をしていても、事務の上では転職に近い形で処理する、とイメージすると分かりやすいです。

そのうえで年末調整については、個人事業を廃業した時点では年末調整を行わず、廃業日までの支払額と源泉徴収税額をまとめた源泉徴収票を従業員に交付し、法人側が年末に「前の支払者からの給与」として合算して精算する、という流れで処理されることが一般的です。年末調整は、その年の最後に給与を支払う者が、同じ年に他から受けた給与も含めて行うという考え方が基礎にあるためです。

ただし、廃業のタイミングや従業員の在籍状況によって扱いが変わることもあります。特に、法人に引き継がない従業員がいる場合や、年内に別の勤務先が挟まる場合は判断が分かれますので、自社のケースに当てはめた結論は税理士や所轄税務署にご確認ください。

源泉所得税の納付は、個人分と法人分で納付書を分ける

法人成り年にいちばん間違えやすいのが、源泉所得税の納付です。個人事業主として預かった源泉税と、法人として預かった源泉税は、それぞれ別の源泉徴収義務者としての納付になります。個人の整理番号で作られた納付書と、法人の整理番号で作られた納付書を混ぜないことが出発点です。

手続きの順番としては、法人設立後すみやかに「給与支払事務所等の開設届出書」を法人の所轄税務署へ提出し、あわせて個人事業側は給与の支払いを終えた段階で廃止に関する届出を行います。源泉所得税の納期の特例(半年分をまとめて納付する扱い)を使いたい場合は、個人で承認を受けていても法人に自動で引き継がれるわけではないため、法人として改めて申請書を提出する必要があります。申請した月の翌月末日以後の支払分から適用される、といった適用開始時期のルールがあるので、最初の納付期限を取り違えないよう注意してください。

納付期限は、原則として給与を支払った月の翌月10日、納期の特例を受けている場合は上半期分と下半期分をそれぞれ定められた期日までに納めます。法人成り直後は、法人側の納期特例の適用が間に合わず、最初の数か月だけ原則どおり毎月納付になるケースもあります。納付漏れは加算税や延滞税の対象となることがあるため、設立直後にスケジュールを紙に書き出しておくと安全です。

従業員がいる場合の年末調整の進め方(いつ・何を・どこに)

時系列で押さえると迷いません。まず法人成りの時点で、個人事業として支払った分の源泉徴収票を作成し、従業員に交付します。次に、法人で給与を支払い始める最初の給与日までに、従業員から法人あての「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出してもらいます。支払者が変わるので、個人事業時代に受け取った申告書をそのまま流用せず、法人として新たに受け取り直して保管します。

11月ごろになったら、年末調整用の書類を配ります。扶養控除等申告書のほか、基礎控除・配偶者控除等・所得金額調整控除の申告書、保険料控除申告書、住宅借入金等特別控除の申告書(該当者のみ)と、生命保険料や地震保険料、社会保険料(国民年金など)の控除証明書を集めます。ここで合わせて、個人事業時代に交付した源泉徴収票も回収します。これが法人側で合算するための資料になります。

12月の給与または賞与の計算時に年末調整を行い、過不足を精算します。精算した結果は、法人としての源泉所得税の納付額に反映させます。翌年1月末までに、従業員への源泉徴収票の交付、税務署への法定調書合計表(および提出範囲に該当する源泉徴収票)の提出、市区町村への給与支払報告書の提出を済ませる、という順番です。

給与支払報告書と特別徴収は、事業所が変わる手続きを忘れずに

給与支払報告書は、従業員のその年1月1日時点の住所地の市区町村へ、翌年1月末までに提出します。法人成り年については、法人側で個人事業分を含めて年末調整をした場合、法人が年間分をまとめた給与支払報告書を提出する形になるのが一般的です。とはいえ市区町村によって案内の仕方に違いがあるため、提出前に該当の市区町村の窓口や公式サイトで確認しておくと確実です。

住民税の特別徴収も切り替えが必要です。特別徴収義務者は個人事業主から法人に変わるため、市区町村に対して「給与所得者異動届出書」や特別徴収義務者の所在地・名称変更に関する届出などを提出し、新しい指定番号で徴収を続ける形に引き継ぎます。届出をしないままだと、旧事業所あてに納入書が届き続けたり、従業員の住民税が普通徴収に切り替わってしまったりすることがあります。

判断の順番としては、①法人成り後も同じ従業員に給与を払い続けるか、②その従業員は特別徴収の対象か、③引き継ぎの届出様式は市区町村ごとにどれか、という順に確認します。従業員が複数の市区町村に住んでいる場合は、それぞれの市区町村に手続きが必要になる点も押さえておきましょう。

社長自身(ひとり社長)の場合はどうなる?

ひとり社長の場合、1月から廃業日までは事業所得、法人設立後は法人から受け取る役員報酬(給与所得)という、性質の異なる2つの所得が同じ年に発生します。役員報酬については法人が源泉徴収と年末調整を行い、事業所得については社長個人が翌年の確定申告で申告する、という二本立てになります。

ここで注意したいのが、年末調整を受けていても確定申告が必要になるケースがあるという点です。事業所得がある、給与収入が一定額を超える、医療費控除や寄附金控除を受けたい、といった場合は確定申告をすることになります。法人成り年は事業所得が残っていることがほとんどなので、確定申告を前提にスケジュールを組んでおくと慌てません。

また、役員報酬は毎月同額で支払うなど、法人税の計算上の取扱いに関するルールがあります。金額の決め方や改定のタイミングによって、損金として扱われないことがありますので、法人成りのタイミングで役員報酬を設定する際は、社会保険料の負担も含めて税理士に相談しながら決めるのが安全です。

よくあるつまずきと、設立直後に押さえるチェックリスト

よくあるのは、①法人の給与支払事務所等の開設届出を出し忘れて納付書が届かない、②個人時代の納期の特例が法人にも続くと思い込んで納付が遅れる、③個人分の源泉徴収票を作らないまま年末調整をして前職分が漏れる、④特別徴収の引き継ぎ届出を出さず住民税の納入先が宙に浮く、という4つです。いずれも書類を出すだけで防げるものなので、設立直後に一気に片付けてしまうのが得策です。

チェックリストとしては、法人設立後1か月以内をめどに給与支払事務所等の開設届出書、必要なら源泉所得税の納期の特例の承認申請書、個人事業側の廃業に伴う届出、最初の給与日までに扶養控除等申告書の回収、11月に年末調整書類の配布と個人分源泉徴収票の回収、12月に年末調整、翌年1月末までに源泉徴収票・法定調書合計表・給与支払報告書の提出、という並びで押さえておきます。

なお、源泉徴収票や給与支払報告書、控除申告書などの保存については、電子帳簿保存法やインボイス制度と同様に、要件が細かく定められています。制度の詳細は国税庁や所管官庁の資料で最新の内容を確認してください。

法人成り年の年末調整は、制度の理解というより「どこで線を引き、どの書類をどこに出すか」の実務の問題です。廃業日と設立日がずれている、年内に役員報酬を後から設定した、従業員の一部だけ法人に移った、といった事情があると判断が変わることがあります。自社のケースでどう処理すべきか迷ったら、早めに税理士(住民税や社会保険の切り替えも絡む場合は社会保険労務士)にご相談ください。設立直後の届出まで含めて相談しておくと、初年度の申告までスムーズに進みます。

よくある質問

法人成りした年は、個人事業分も含めて法人で年末調整できますか?

個人事業を廃業した時点までの給与について源泉徴収票を交付し、法人側がそれを合算して年末調整を行う流れが一般的です。ただし従業員の在籍状況や廃業のタイミングによって扱いが変わることがありますので、税理士や所轄税務署にご確認ください。

源泉所得税の納期の特例は、個人事業から法人に引き継がれますか?

個人で承認を受けていても、法人は別の源泉徴収義務者になるため、そのまま引き継がれるとは限りません。法人として改めて承認申請書を提出する必要があり、適用開始時期のルールもあるため、最初の納付期限を確認しておきましょう。

給与支払報告書は個人分と法人分を別々に出すのですか?

法人側で個人事業分を含めて年末調整をした場合、法人が年間分をまとめて提出する形になるのが一般的です。市区町村によって案内が異なることがあるため、提出前に該当の市区町村の窓口や公式サイトで確認してください。

住民税の特別徴収はどう切り替えますか?

特別徴収義務者が個人事業主から法人に変わるため、各従業員の1月1日時点の住所地の市区町村に、異動届出書など所定の届出を提出して引き継ぎます。届出をしないと旧事業所あてに納入書が届き続けたり、普通徴収に切り替わってしまうことがあります。

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