一人社長の株主総会議事録の作り方|必要になる場面と記載例
株主も取締役も自分ひとり。会議室に集まる相手もいないのに、議事録を作る意味はあるのだろうか——ひとり社長の多くが一度は引っかかるところです。結論から言えば、一人会社でも株主総会という手続きは存在し、その記録である議事録は会社の中に残しておくものとされています。この記事では、議事録が実際に必要になる場面、書くべき項目、一人社長ならではの書き方のコツを、順番に整理します。
この記事の結論
- 株主も役員も一人の会社であっても、会社法上は株主総会という機関は存在し、決議をしたときは議事録を作成して本店に備え置くこととされています。
- 一人社長の議事録で特に出番が多いのは、役員報酬の決定、決算(計算書類)の承認、役員の任期満了に伴う再任、本店移転や商号変更などの登記が必要な場面です。
- 実際に人が集まらない場合でも、議案に全員(=自分一人)が書面等で同意する形の「決議があったものとみなす」手続きを使い、その記録を議事録として残す方法が一般的です。
一人社長でも株主総会は必要? まず押さえる考え方
株式会社である以上、株主が一人でも株主総会という機関はなくなりません。会社の重要事項は株主総会で決めることとされており、株主が自分ひとりなら「自分が決めた」という事実を、株主総会の決議として記録に残すイメージになります。集まる相手がいないから手続きが不要、という整理にはなりにくい点に注意してください。
実務では、実際に会議を開いて進行するというより、決めた内容を書面に落とし込む作業に近くなります。会社法には、議案について株主全員が書面または電磁的記録で同意した場合に、株主総会の決議があったものとみなす仕組みがあり、一人会社ではこの形を使って議事録を作るケースがよく見られます。
もうひとつ押さえておきたいのが、取締役が自分一人の会社では取締役会を置いていないことが多い、という点です。取締役会がない会社では、取締役会議事録ではなく株主総会議事録や取締役の決定書で処理する場面が増えます。自社の定款で「取締役会設置会社」と書かれているかどうかを、最初に確認しておきましょう。
一人社長の議事録が実際に必要になる場面
出番がいちばん多いのは役員報酬です。役員報酬は期首から一定期間内に決め、事業年度の途中では原則として変えない運用が求められる場面があり、その決定の根拠として議事録の提示を求められることがあります。税務上の取扱いは会社の状況によって変わるため、金額や改定のタイミングは税理士にご確認ください。
次に多いのが決算です。事業年度ごとに計算書類を承認する決議を行い、その記録を残します。決算書に「株主総会承認済み」の位置づけを与えるものなので、毎期セットで作っておくと後から慌てずに済みます。
そして登記が絡む場面です。役員の任期が満了して同じ人が続けて就任する(重任)とき、商号を変えるとき、本店を移すとき、事業目的を追加するとき、増資をするときなどは、登記申請の添付書類として議事録が求められるのが一般的です。金融機関の融資審査や補助金の申請で、決議の記録を確認されることもあります。
株主総会議事録に書く項目と、一人社長版の記載例
議事録に入れておきたい基本項目は、①開催した日時と場所(書面決議の場合はその旨)、②出席した株主と議決権の数、③議長と議事録作成者、④議案の内容と決議の結果、⑤作成年月日と会社名です。決議の結果は「可決した」だけでなく、決まった中身(金額、日付、新しい商号など)が読み取れるように書きます。
一人社長で実際に日時を決めて開催する形にするなら、次のような書き方になります。『第◯期定時株主総会議事録/開催日時:◯年◯月◯日午前◯時/場所:当会社本店会議室/発行済株式総数◯株、議決権を行使できる株主の議決権数◯個、出席株主の議決権数◯個/議長兼議事録作成者:代表取締役◯◯◯◯/第1号議案 第◯期計算書類承認の件 議長は第◯期の貸借対照表および損益計算書を提出しその内容を報告し、承認を求めたところ、満場一致をもって承認可決された。』。一人でも「満場一致」「出席株主の議決権の全部」という表現は使われます。
書面決議の形にするなら、開催日時・場所の代わりに『当会社の株主全員から、下記議案につき書面により同意の意思表示があったため、会社法の規定により当該議案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなされた』といった一文を入れ、決議があったものとみなされた日を記載します。この場合は、同意の意思表示を記した書面も一緒に保管しておくと、後から経緯をたどりやすくなります。
作成から保管までの手順
手順は、①いつの決議かを決める、②必要書類をそろえる、③議事録を作る、④保管する、の順で考えると迷いません。まず「役員報酬の改定なら期首から一定期間内」「決算承認なら決算日の後」というように、決議の日付が先に決まります。日付を後からさかのぼって作る形にならないよう、決めたその時期に作成しておくのが安全です。
用意するものは、定款(取締役会の有無や株主総会の招集ルールの確認用)、株主名簿または発行済株式数が分かる資料、決議の対象になる書類(計算書類、報酬額の案、新しい本店所在地など)です。登記が絡む場合は、法務局の申請書類の案内で、その登記にどの議事録が必要かを確認してから作ると手戻りが減ります。
できあがった議事録は、本店に備え置くこととされています。備置期間は会社法で定められているため、会社を続けている間はまとめて残しておく前提で管理するのが現実的です。紙で保管するかPDFで保管するかは会社の運用次第ですが、電子で保存する場合の要件は制度によって考え方が異なるため、国税庁や法務省など所管官庁の資料もあわせて確認してください。
押印・署名はどうする? よくあるつまずき
取締役会を置かない会社の株主総会議事録は、押印が法律上一律に求められるわけではないという整理がされることがあります。ただし、登記申請の添付書類として使う場合や、金融機関に提出する場合には、代表者の記名押印がある形を求められることが少なくありません。迷ったら、議長兼議事録作成者として記名し、会社実印または個人の実印を押しておくと扱いやすくなります。
つまずきやすいのは、日付の整合性です。決算承認の議事録の日付が決算申告より後になっている、役員報酬の改定日と実際の支給開始月がずれている、登記申請日より議事録の日付が後になっている——こうしたズレは、後から指摘されると直しにくいものです。決議日・支給開始日・提出日の3つを並べて確認する習慣をつけましょう。
もうひとつは、そもそも作っていないケースです。数年分まとめて作ろうとすると、当時の株式数や報酬額が分からなくなりがちです。決算のタイミングで「決算承認」「役員報酬」「任期の確認」を同時に点検し、議事録フォルダに1期1セットで積み上げていく運用にしておくと、抜けに気づきやすくなります。
取締役会がない会社の「取締役の決定書」との使い分け
取締役が自分一人で取締役会を置いていない会社では、取締役会議事録は作成できません。代わりに、業務執行に関する決定を記録する「取締役の決定書」という書面を使う場面があります。たとえば本店を同一市区町村内で移転する場合など、定款で定めた範囲内の決定は取締役の決定で足りるとされることがあります。
判断の順番としては、まず定款を見て、その事項が定款に書かれているかを確認します。定款の記載を変える必要があるなら株主総会の決議(特別決議になることが多い)が必要で、定款を変えずに済む実務的な決定なら取締役の決定書で処理できる場合がある、という切り分けです。増資や商号変更、事業目的の追加は株主総会側、と覚えておくと整理しやすくなります。
どちらの書面が必要かは、登記の種類や定款の書きぶりによって変わります。登記を伴う手続きで迷ったときは、自己判断で作り込む前に司法書士に確認すると、作り直しを避けられます。
迷ったら専門家に確認を
一人社長の議事録は、書式そのものは難しくありません。難しいのは「この決定に議事録が要るのか」「株主総会と取締役の決定のどちらか」「いつの日付で作るべきか」という判断のほうです。ここを外すと、登記が通らなかったり、税務上の取扱いで思わぬ指摘を受けたりすることがあります。
役員報酬の金額や改定時期、決算承認の進め方については税理士に、登記が必要な変更や定款の書きぶりについては司法書士に相談するのが一般的な切り分けです。顧問がいない場合でも、スポットで相談を受けている事務所があります。
会社の規模が小さいうちほど、書類の型を最初に作っておく効果が大きくなります。1期目の決算のタイミングで一度専門家に見てもらい、自社用のひな形を整えておくことをおすすめします。
よくある質問
株主も役員も自分一人なら、議事録を作らなくてもいいですか?
一人会社でも株主総会という機関は存在し、決議をしたときは議事録を作成して本店に備え置くこととされています。登記や融資審査、税務上の確認の場面で提示を求められることもあるため、作成しておくのが安全です。作り方が分からない場合は司法書士や税理士にご確認ください。
実際に会議を開いていないのに「開催日時」を書いてよいのでしょうか?
実態と合わない記載は避けたいところです。人が集まらない場合は、議案に株主全員が書面等で同意し「決議があったものとみなす」形にして、その旨と決議があったものとみなされた日を議事録に書く方法がよく使われます。同意の書面もあわせて保管しておきましょう。
議事録に会社の実印を押す必要はありますか?
取締役会を置かない会社では押印が一律に求められるわけではないと整理されることがありますが、登記申請や金融機関への提出で記名押印を求められる場面は少なくありません。実務では代表取締役の記名押印を入れておくと扱いやすくなります。
役員報酬を変えるときは、いつまでに議事録を作ればよいですか?
役員報酬は事業年度の開始から一定期間内に決めることが求められる場面があり、決めた時期に合わせて議事録を残しておくのが基本です。支給開始月と決議日がずれないよう並べて確認してください。具体的な時期や金額の取扱いは税理士にご確認ください。