派遣社員を受け入れるときの契約書類|雇用契約書との違いと流れ

・採用・労務・会社のはじめかた編集部(監修:田中 祐介)

「派遣社員にも雇用契約書を用意するんですか?」——初めて派遣を受け入れる会社から、いちばん多く聞かれる質問です。結論から言うと、派遣社員と雇用契約を結ぶのは派遣元であり、受け入れる側の会社は雇用契約書を作りません。そのかわり、派遣会社との間で交わす契約書や、法律で作成・通知が求められる書類がいくつかあります。この記事では、誰が誰と何を交わすのかという役割分担と、受け入れまでの手続きの流れを順番に整理します。

この記事の結論

  • 派遣社員の雇用契約書は派遣元(派遣会社)と派遣社員の間で結ぶもので、受け入れる派遣先の会社は雇用契約書を作成しません。
  • 派遣先が関わる主な書類は、派遣会社との労働者派遣基本契約書と個別契約書、事業所単位の抵触日の通知、比較対象労働者の待遇情報の提供、そして派遣先管理台帳です。
  • 受け入れの流れは「基本契約→抵触日通知と待遇情報の提供→個別契約→派遣先責任者の選任と台帳整備」の順に進めると漏れが出にくくなります。

派遣社員に雇用契約書は必要? 契約関係を3者で整理する

派遣の契約関係は、登場人物が3者いるため混乱しやすいところです。派遣社員を雇用しているのは派遣元、つまり派遣会社です。労働条件を明示し、雇用契約書(労働条件通知書)を交付するのも派遣元の役割になります。

一方で、実際に仕事の指示を出すのは派遣先である受け入れ側の会社です。指揮命令はするけれど雇用はしていない、という点が、直接雇用のパート・アルバイトと決定的に違うところです。そのため、派遣先が派遣社員本人と雇用契約書を取り交わすことはありません。本人と書面を直接やりとりする場面がほとんどない、と考えてよいでしょう。

では派遣先は何も書面を持たないのかというと、そうではありません。派遣先は派遣会社との間で契約を結び、さらに法律上求められる通知や台帳の整備を行います。「本人とは契約しない、会社とは契約する、そのうえで記録を残す」——この3点セットで覚えておくと整理しやすくなります。

派遣先が関わる書類は4種類|基本契約書・個別契約書・通知・台帳

まず、労働者派遣基本契約書です。これは派遣会社と派遣先の間で、取引全体に共通するルールを定めるものです。契約解除の取り扱い、損害賠償や秘密保持、料金の支払条件といった枠組みを決めます。同じ派遣会社から継続して受け入れる場合、基本契約は最初に一度結べば足りるのが一般的です。

次に、労働者派遣個別契約書(労働者派遣契約)です。こちらは実際に人を受け入れるたびに、業務内容、就業場所、組織単位、就業日と就業時間、指揮命令者、派遣先責任者、苦情処理の方法、契約期間などを具体的に定めます。個別契約に書かれた業務以外をお願いすることは想定されていないため、「ついでにこの仕事も」となりがちな点には注意が必要です。

3つ目が通知の類です。派遣先は、事業所単位の期間制限に関する抵触日を派遣会社に通知する必要があります。また、派遣社員の待遇を検討するための情報として、比較対象労働者の待遇に関する情報を派遣会社へ提供することが求められます。4つ目が派遣先管理台帳で、就業日や従事した業務などを記録し、一定期間保存します。派遣元側にも派遣元管理台帳があり、双方で記録を残す形です。

受け入れまでの流れ|いつ・何を用意して・どこに出すか

最初に行うのは、派遣会社との基本契約の締結です。人員の相談を始めた段階で、同時並行で契約書のひな形を確認しておくと、いざ人が決まってから慌てずに済みます。自社の秘密保持の考え方や、就業先の安全衛生の取り扱いなど、気になる条項は署名前に確認しておきましょう。

次に、個別契約を結ぶ前の段階で、事業所単位の抵触日を派遣会社に通知します。あわせて、比較対象労働者の待遇情報を提供します。この情報提供は、派遣社員の待遇を決めるために派遣会社が必要とするものなので、人事・給与の担当者が社内の賃金や手当、福利厚生の実態を整理したうえで対応することになります。どの範囲をどう伝えるかは判断が分かれやすいため、社内で様式を決めておくと毎回の負担が減ります。

そのうえで個別契約書を交わし、受け入れ日を迎えます。受け入れ前に、派遣先責任者と指揮命令者を決めて社内に周知し、派遣先管理台帳の様式を用意しておきます。初日には、就業場所の案内、設備やシステムの利用方法、安全衛生上の注意点、困ったときの相談窓口(苦情の申出先)を伝えます。ここまでを一連の流れとして手順書にしておくと、担当者が替わっても回ります。

期間制限と直接雇用|受け入れる前に確認しておく論点

派遣には、同じ事業所で派遣を受け入れられる期間と、同じ人を同じ組織単位で受け入れられる期間について、法律上の制限が設けられています。延長には所定の手続きが必要になる場合があり、対象外となる働き方もあります。自社のケースがどれに当たるかは、厚生労働省の資料や派遣会社の説明で必ず確認し、判断に迷う場合は社会保険労務士に相談してください。

期間制限が近づいてきたときの選択肢としては、契約を終了する、別の組織単位で受け入れる、直接雇用に切り替えるなどが考えられます。直接雇用に切り替える場合は、その時点で自社と本人の間に雇用契約が生まれるため、雇用契約書(労働条件通知書)の作成、社会保険や雇用保険の手続き、就業規則の適用といった通常の入社手続きが一式必要になります。

なお、派遣社員を受け入れるときに、事前に面接をして人を選ぶような行為は、派遣の仕組みになじまないと整理されています。職場見学や顔合わせの位置づけについては解釈が分かれやすいので、派遣会社と進め方をすり合わせ、不安があれば専門家に確認しておくと安心です。

直接雇用の雇用契約書との違い|担当者が混同しやすいポイント

直接雇用の場合、雇用契約書には賃金、労働時間、休日、業務内容、契約期間などを書き、自社と本人が署名します。派遣の個別契約書は一見似た項目が並びますが、決めているのは「派遣会社と派遣先の取引条件」であり、本人の賃金は書かれません。派遣料金と本人の賃金は別のものだ、という点はよく混同されます。

労務管理の役割も分かれます。給与計算、社会保険や雇用保険の手続き、年次有給休暇の付与、健康診断といった雇用主としての対応は派遣元が担います。一方、日々の就業時間の管理、休憩や休日の確保、職場の安全衛生、ハラスメント防止といった現場の管理は派遣先が担う部分が大きくなります。どちらの責任かで迷ったら、「雇用に関することは派遣元、就業場所で起きることは派遣先」と当たりをつけ、個別契約書の記載と法令を確認するのが近道です。

就業時間を変更したい、業務内容を広げたい、といった変更が生じたときは、現場で本人に伝えるのではなく、まず派遣会社に連絡して契約の変更手続きを取ります。現場判断で運用を変えてしまうと、契約書の記載と実態がずれ、後からトラブルの原因になりがちです。

社内の体制づくり|小さな会社が最初に整えておくこと

ひとり社長や少人数の会社では、派遣の受け入れが年に数回しかないこともあります。その場合こそ、書類の保管場所と担当者を決めておくことが効きます。基本契約書、個別契約書、抵触日通知の控え、待遇情報の提供内容、派遣先管理台帳を、案件ごとに1つのフォルダにまとめておくと、更新時期や台帳の保存期間の管理がしやすくなります。

台帳や契約書を電子データで保存する場合、保存方法について社内ルールを決めておくと運用が安定します。契約書の電子化や保存については、電子帳簿保存法など関連する制度の考え方も関わってくるため、要件の詳細は所管官庁の資料で確認してください。

また、現場の指揮命令者には「派遣社員に頼んでよい業務の範囲」「変更したいときは人事へ連絡する」という2点だけでも共有しておきましょう。制度の細かい説明より、この2点を守ってもらうほうが実務上のトラブル防止につながります。

期間制限の延長手続き、直接雇用への切り替え、待遇情報の提供範囲など、判断に迷う論点は少なくありません。自社のケースに合わせた具体的な取り扱いについては、社会保険労務士に相談しながら進めることをおすすめします。契約条項そのものの妥当性が気になる場合は、弁護士に確認するとよいでしょう。

よくある質問

派遣社員に雇用契約書を渡すのは派遣先ですか、派遣会社ですか?

雇用契約を結んでいるのは派遣会社(派遣元)なので、雇用契約書や労働条件の明示は派遣会社が行います。受け入れる派遣先は、本人と雇用契約書を交わすことはありません。派遣先が交わすのは、派遣会社との基本契約書と個別契約書です。

派遣先管理台帳は作らなくてもよいですか?

派遣先管理台帳の作成と一定期間の保存は、派遣先に求められている対応です。就業日や従事した業務などを記録するもので、様式をあらかじめ用意しておくと毎回の負担が軽くなります。記載事項や保存期間の詳細は、厚生労働省の資料や派遣会社の案内で確認してください。

派遣社員を直接雇用に切り替えるときは何が必要ですか?

切り替えた時点から自社が雇用主になるため、雇用契約書(労働条件通知書)の作成、社会保険・雇用保険の手続き、就業規則の適用など、通常の入社手続きが必要になります。派遣会社との契約の取り扱いも関わるので、事前に相談して段取りを決めておきましょう。手続きの順序に不安があれば社会保険労務士に確認すると安心です。

契約書に書いていない業務を頼んでも大丈夫ですか?

個別契約書に定めた業務の範囲で就業してもらうのが原則なので、範囲外の業務を現場判断で依頼するのは避けたほうがよいでしょう。業務内容を変えたい場合は、まず派遣会社に連絡して契約変更の手続きを取ります。判断に迷うケースは社会保険労務士に相談してください。

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