給与支払事務所の開設届と源泉所得税の納期の特例|提出の順番

・採用・労務・会社のはじめかた編集部(監修:田中 祐介)

会社をつくって最初の役員報酬を決めたら、次にやってくるのが「源泉所得税」の手続きです。給与を払う立場になった会社は、税務署に「給与を払う事務所ができました」と知らせ、あわせて納付の回数を年2回にまとめる申請を出すかどうかを決めることになります。名前が長くて似ている書類が2つ並ぶため、どちらを先に出すのか、いつまでに出すのかで手が止まりがちです。この記事では、提出の順番と判断の基準を、設立直後のひとり社長の目線で整理します。

この記事の結論

  • 給与や役員報酬を払い始める会社は、給与支払事務所等の開設届出書を、開設した日からおおむね1か月以内に、会社の所在地を所轄する税務署へ提出します。
  • 源泉所得税は原則として毎月納付ですが、給与を支払う人数が常時10人未満の場合は、納期の特例の申請により年2回にまとめられる扱いがあります。
  • 2つの書類は同時に出して構いませんが、納期の特例は承認された月の翌月支払い分からの適用が基本のため、最初の給与支払いの時期から逆算して早めに出すのが安全です。

そもそも会社が源泉徴収をするのはどんなときか

会社が役員報酬や給与を支払うとき、支払う側は所得税を差し引いて、本人に代わって国に納めることになります。これが源泉徴収で、支払う会社は「源泉徴収義務者」と呼ばれる立場になります。ひとり社長で、給与を受け取るのが自分だけであっても、会社から自分へ報酬を払う以上は同じ枠組みに入ります。

対象になるのは給与だけではありません。税理士や司法書士などへの報酬、原稿料やデザイン料など、一定の支払いも源泉徴収の対象として扱われることがあります。設立直後に専門家へ支払いが発生する会社は、給与より先に源泉徴収の場面に出会うこともあります。

逆に、役員報酬をゼロにしていて、給与も報酬の支払いもまったくない期間は、源泉徴収する対象自体がありません。ただし「いずれ払う予定」であれば、払い始めるタイミングで手続きが必要になると考えておいてください。

給与支払事務所等の開設届出書は、いつ・どこに出すか

最初に出すのが「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」です。給与を支払う事務所を開設した日から、おおむね1か月以内に、会社の本店所在地を所轄する税務署へ提出します。提出先は住所地ではなく会社の所在地の所轄税務署なので、登記した住所を基準に確認してください。

書くのは、会社の名称・所在地・法人番号、開設した年月日、給与の支払いを始める年月日、支払いを受ける人の見込み人数といった基本情報が中心です。様式は国税庁のサイトから入手でき、書き方の注意書きも同じページで確認できます。窓口・郵送のほか、電子申請に対応している場合もあるため、会社の体制に合う方法を選んでください。

なお、会社設立時に「法人設立届出書」を提出している場合、その記載内容によっては開設届出書の提出が重ねて必要かどうかの扱いが変わることがあります。自分のケースでどちらが必要かは、提出前に所轄税務署か顧問の税理士に確認すると確実です。

源泉所得税の納期の特例とは何か、誰が使えるか

源泉徴収した所得税は、原則として給与を支払った月の翌月10日までに納めます。毎月の納付は、経理担当がいない小さな会社ほど負担になりがちです。そこで、給与を支払う人数が常時10人未満の会社を対象に、納付を年2回にまとめられる「納期の特例」という制度があります。

特例の承認を受けると、1月から6月までに源泉徴収した分を7月10日までに、7月から12月までの分を翌年1月20日までに納付する形になります。納付の回数が減ることで、うっかり納め忘れて不納付加算税や延滞税を求められる場面を減らしやすくなります。

対象になるのは給与や退職手当、税理士報酬など一定の範囲で、すべての源泉徴収が特例の対象になるわけではありません。対象の範囲は国税庁の資料で確認し、自社の支払いが当てはまるか迷う場合は税理士に相談してください。

提出の順番と、最初の給与支払いからの逆算

結論から言うと、2つの書類は同時に提出して差し支えありません。ただし内容の順番としては、まず「給与を払う事務所ができた」と届け出る開設届出書があり、その上で「納付を年2回にまとめたい」と申請する納期の特例、という関係になります。書類を並べる際も、この順で考えると整理しやすくなります。

気をつけたいのは、納期の特例には適用開始のタイミングがある点です。申請書を出した月の翌月末までに税務署から却下の通知がなければ承認されたものとして扱われ、適用は承認を受けた月の翌月に支払う給与からが基本です。つまり、申請が遅れると、最初の1〜2回分は原則どおり翌月10日までに納めることになります。

そこで、最初の役員報酬の支払日が決まったら、そこから逆算してください。たとえば設立直後に報酬支払日を決めた段階で、開設届出書と納期の特例の申請書をまとめて準備し、最初の支払いより前に提出しておく。この順で動けば、初回から特例の枠組みに乗せやすくなります。

毎月納付と納期の特例、どちらを選ぶかの判断

まず人数の条件を見ます。給与の支払いを受ける人が常時10人以上いる会社は、そもそも特例を使えません。ひとり社長や家族役員のみ、従業員が数人という規模であれば、条件の面では選択肢に入ります。

次に資金繰りを見ます。特例は納付をまとめるだけで、負担が減るわけではありません。半年分をまとめて納めることになるため、預かった源泉税を使ってしまい、7月や1月に資金が足りない、という事態が起きやすくなります。預り金を別口座に分けるなどの管理ができない段階なら、あえて毎月納付を続けるほうが運用しやすいこともあります。

最後に事務の体制を見ます。毎月の給与計算を税理士や給与計算ソフトに任せていて、納付まで流れで処理できるなら毎月納付でも負担は小さい。反対に、社長が自分で処理していて月次の作業を減らしたいなら特例が向きます。人数が10人に近づいてきた会社は、途中で条件を外れたときの届出も必要になるため、成長の見込みも合わせて考えてください。

届出のあとに続く実務と、あわせて確認したいこと

届出が終わっても、源泉徴収の実務はそこから始まります。役員報酬を支払うたびに、源泉徴収税額表にもとづいて所得税および復興特別所得税を差し引き、所定の期限までに納付書で納めます。納付書は税務署で入手できるほか、電子納税を使う方法もあります。

年末には年末調整があり、翌年には給与支払報告書を市区町村へ、法定調書合計表を税務署へ提出する流れが続きます。住所地の市区町村に対する住民税の特別徴収の手続きも関係してくるため、設立1年目は「税務署に出すもの」と「市区町村に出すもの」を分けてカレンダーに書き出しておくと迷いません。

また、役員報酬は金額の決め方や変更のタイミングによって、法人税の計算上の扱いが変わることがあります。源泉徴収の手続きと役員報酬の決め方はセットで考えたほうがよいので、最初の事業年度のうちに一度、税理士に全体を見てもらうことをおすすめします。手続きそのものは自分でできても、金額の設定と時期の判断は専門家の目を入れる価値が大きい部分です。判断に迷う点や、自社が特例の対象になるかどうかの確認は、顧問税理士または所轄の税務署にご相談ください。

よくある質問

役員報酬がゼロの間も、給与支払事務所等の開設届出書は必要ですか。

給与や報酬の支払いがまったくない間は、源泉徴収する対象自体がありません。実際に支払いを始める時点で提出を検討するのが基本ですが、法人設立届出書の記載内容との関係で扱いが変わることもあるため、所轄税務署か税理士に確認してください。

納期の特例を申請したのに、承認の通知が届きません。

申請書を提出した月の翌月末までに却下の通知がなければ、承認されたものとして扱われる仕組みになっています。通知が来ないこと自体は必ずしも問題とは限りませんが、適用の開始時期に不安がある場合は所轄税務署に確認するのが確実です。

従業員が増えて10人以上になったら、どうすればよいですか。

常時10人未満という条件を満たさなくなった場合は、その旨を届け出る書類を所轄税務署へ提出し、原則どおりの毎月納付に戻る流れになります。人数が増えそうな時期があらかじめ分かっているなら、給与計算の担当や税理士と事前に段取りを決めておくと安心です。

税理士への報酬も源泉徴収の対象になりますか。

税理士や司法書士などへの報酬は、源泉徴収の対象として扱われることがあります。請求書に源泉税額が記載されている場合が多いので、支払時の処理と納付のタイミングを確認し、判断に迷う場合は税理士にご相談ください。

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