定款の株式譲渡制限と売渡請求|小さな会社が入れておく条項の考え方

・会社設立・登記・会社のはじめかた編集部(監修:田中 祐介)

「株式が知らない人の手に渡ったらどうなるのか」——ひとり社長や少人数の会社ほど、この不安は現実的です。定款には、株式の移動をコントロールするための条項をいくつか置くことができます。ただし、条項を増やせば安心というわけではなく、置き方を誤ると自分の側が不利になる場面もあります。この記事では、株式譲渡制限・相続人等に対する売渡請求・無議決権株式・株主名簿という4点について、小さな会社が何をどの順で決めればよいかを整理します。

この記事の結論

  • 株式が外部に渡るのを防ぐ定款条項の基本は、全株式に譲渡制限を付け、承認機関を会社の規模に合わせて定めておくことです。
  • 相続人等に対する売渡請求の条項は、株主の死亡で株式が親族に散るのを防ぐ手段になる一方、請求される側の株主が議決権を行使できない扱いとなるため、少数株主がいる会社では自社に不利に働く場面もあります。
  • 分散防止でまず検討したいのは、条項を増やすことよりも、設立時に株式を誰にどれだけ持たせるかという持株比率の設計そのものです。

定款の株式譲渡制限とは何か、なぜ小さな会社で必要なのか

株式譲渡制限とは、株式を他人に譲り渡すときに会社の承認を必要とする、という定款上の定めです。これを置いておくと、株主が勝手に第三者へ株式を売っても、会社が承認しない限り、その相手を株主として扱わなくてよい建て付けになります。中小企業の多くがこの定めを置いているのは、誰が株主になるかを会社側でコントロールしたいからです。

逆に譲渡制限がない会社では、株式は原則として自由に移動します。共同創業者が持分を抱えたまま離脱し、その株式が面識のない相手に渡る、といった事態も理屈のうえでは起こり得ます。株主は議決権を通じて役員の選任や重要事項の決定に関与する立場ですから、誰が株主かは経営の安定に直結します。

設立時に定款を作る段階であれば、発行する全部の株式に譲渡制限を付ける形にしておくのが、小さな会社では一般的な出発点です。すでに会社があって譲渡制限がない場合は、定款変更(株主総会の特別決議)と登記が必要になります。この変更は登記事項にも関わるため、司法書士に相談しながら進めると安全です。

承認機関は株主総会と取締役会のどちらにするか

譲渡制限を置くときに一緒に決めるのが、「誰が承認するか」という承認機関です。取締役会を置いていない会社なら株主総会、取締役会設置会社なら取締役会とするのが標準的な形ですが、定款で別に定めることもできます。ひとり社長で取締役会を置かない会社であれば、株主総会(実質的には自分一人)が承認する形で足りることが多いでしょう。

判断の順番としては、まず①取締役会を置くかどうかを決め、②置かないなら株主総会または代表取締役を承認機関にする、③将来役員を増やして取締役会を置く予定があるなら、そのときに定款を見直す、という流れで考えると整理しやすくなります。承認機関を代表取締役にしておくと機動的ですが、後から共同経営者が入ると「社長一人で決められるのは不公平だ」という争点になり得ます。

なお、株主が一人しかいない会社や、株主全員の同意がある譲渡については、承認手続を簡略にする定めを置くこともあります。細かい書きぶりは会社の構成によって変わるため、ひな形をそのまま使わず、自社の役員構成と株主構成に合わせて確認してください。

相続人等に対する売渡請求は入れるべきか

譲渡制限は「売買などによる移動」を止める仕組みですが、相続による移動は止められません。株主が亡くなると、株式は相続人に承継されます。そこで使われるのが、相続人等に対する売渡請求の定めです。相続その他の一般承継で株式を取得した者に対し、会社がその株式を売り渡すよう請求できる、という内容を定款に置いておくものです。

この定めがあると、株主の死亡後に会社が株式を買い取り、経営に関与しない相続人に株式が残り続ける事態を避けやすくなります。ただし請求できる期間には制限があり、また会社が自己株式を取得する形になるため、買取に充てられる財源(分配可能額)の範囲という会社法上の制約もかかります。手元資金がなければ請求しても実行できない、という点は先に押さえておきたいところです。

注意が必要なのは、この条項が「会社が選んだ相手にだけ使える」ものではないことです。売渡請求は株主総会の決議で行い、その決議では請求の対象となる株主側は議決権を行使できない扱いになります。つまり、多数株主が亡くなってその相続人が対象になった場合、残った少数株主だけで決議が成立し、会社の支配権が入れ替わる可能性があります。少数株主がいる会社でこの条項を入れるときは、そのリスクを理解したうえで、弁護士や司法書士に設計を確認してもらうことをおすすめします。

無議決権株式など種類株式は、どういう会社に向くか

「出資はしてもらいたいが、経営の決定には関わってほしくない」という場面で使われるのが、議決権のない株式(無議決権株式)です。定款で発行可能な種類株式の内容を定め、議決権を行使できる事項がない、といった形で設計します。親族や応援してくれる知人から出資を受けるときに、経営判断は創業者に残す、という整理ができます。

一方で、種類株式は定款の記載も登記も複雑になり、後の増資や事業承継の場面で調整が必要になります。株主が実質的に自分だけ、または創業者二人だけという段階では、まず普通株式のみで持株比率を設計し、種類株式は必要が生じたときに検討する、という順番でも遅くありません。判断基準としては、①議決権を渡したくない出資者が実在するか、②配当や残余財産で差をつける必要があるか、のどちらかにはっきり当てはまるときに検討する、と考えると迷いにくくなります。

記載例をインターネットで探す方もいますが、種類株式の条項は組み合わせによって効果が変わります。ひな形の文言を切り貼りすると、意図した内容と登記できる内容がずれることがあります。設計段階で司法書士に見てもらい、登記まで見通した文言にしておくと安全です。

株主名簿の整備と、設立時の持株設計という土台

定款の条項と同じくらい大事なのが、株主名簿です。会社は株主の氏名・住所、持株数、取得日などを記載した名簿を作り、備え置くこととされています。名簿がないと、誰が株主かを会社として確定できず、譲渡承認も売渡請求も手続の土台が揺らぎます。設立直後に一度作り、増資や譲渡のたびに更新する運用にしておきましょう。

そして、分散防止で効果が大きいと考えられるのは、条項を増やすことよりも、そもそも株式を分散させない設計です。設立時に「手伝ってくれるから」と安易に株式を渡すと、後で買い戻すには相手の同意と資金が要ります。報酬や役員就任で報いる方法もありますから、株式を渡す前に他の選択肢を検討する余地があります。

実務的な進め方としては、①定款作成前に株主構成と持株比率を決める、②全株式に譲渡制限を付け、承認機関を決める、③相続人等に対する売渡請求を入れるかを株主構成をふまえて判断する、④設立後すぐ株主名簿を作る、という順番になります。②③は定款の内容に関わるため、公証役場での定款認証(株式会社の場合)より前に固めておく必要があります。

迷ったときの相談先と、確認しておきたいこと

定款の条項設計は、会社法の規律と登記実務が絡むため、文言ひとつで結果が変わることがあります。株式譲渡制限や種類株式の内容は登記事項に関わるものもあり、定款だけ直しても手続が完了しない場合があります。設立時であれば定款作成の段階から、既存会社であれば定款変更の検討段階から、司法書士に相談すると手戻りが減ります。

株主間の対立が予想される場面、共同創業者の離脱条件を決めたい場面では、弁護士に株主間契約もあわせて相談するのが現実的です。定款は会社と株主全体を縛るルール、株主間契約は当事者同士の取り決めで、役割が違います。両方を組み合わせて設計することが多い領域です。

また、株式の買取や承継には税務上の評価の問題が伴い、扱いが個別事情で変わることがあります。自己株式の取得や相続時の株式評価については、税理士にご確認ください。制度の詳細な要件は改正されることもあるため、所管官庁や法務局の最新の資料もあわせて確認しておくと安心です。

よくある質問

定款に株式譲渡制限を入れ忘れた場合、後から追加できますか。

株主総会の特別決議による定款変更と、登記の手続で対応するのが一般的です。ただし既存株主への影響や手続の流れは会社の状況によって異なるため、司法書士に相談して進めてください。

相続人等に対する売渡請求の条項は、ひとり株主の会社でも意味がありますか。

株主が自分一人だけの会社では、自分の相続人が対象になる場面が想定されます。会社を継がせたいのか、清算や売却も視野に入れるのかで判断が変わるため、事業承継の方針とあわせて専門家に確認するとよいでしょう。

株主名簿は決まった書式がありますか。

法定の書式そのものは定められていませんが、株主の氏名・住所、持株数、取得日といった記載事項が求められます。表計算ソフトで作っても差し支えありませんが、更新の担当と時期を決めて運用することが大切です。

無議決権株式の記載例をそのまま使っても大丈夫でしょうか。

種類株式の条項は、発行可能種類株式総数や他の条項との整合が必要で、ひな形をそのまま転用すると意図と食い違うことがあります。設計と登記の両方を見通せるよう、司法書士に文言を確認してもらうことをおすすめします。

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