事業目的は法人口座の審査に影響するか|定款の書き方で気をつける点
会社をつくって最初につまずきやすいのが法人口座の開設です。「登記はできたのに、銀行でなかなか話が進まない」というとき、定款に書いた事業目的が見られていることがあります。この記事では、事業目的が口座開設の審査でどう扱われるのか、どんな書き方が誤解を生みやすいのか、そして開設前に何をどの順で確認すればよいかを、実務の流れに沿って整理します。
この記事の結論
- 法人口座の開設審査では、登記事項証明書に記載された事業目的が「実際の事業内容と合っているか」という観点で確認されることが一般的です。
- 事業目的そのものに良し悪しがあるというより、実態と記載のズレ、目的の数が多すぎること、許認可が必要な業種の記載などが、追加の説明を求められる要因になりやすいと言われます。
- 事業目的を変更する場合は株主総会の特別決議と変更登記が必要になるため、口座開設の直前ではなく、設立前の定款作成の段階で整えておくのが現実的です。
事業目的の「口座」への影響とは?まず何が見られているのか
法人口座の開設を申し込むと、多くの金融機関で登記事項証明書(履歴事項全部証明書)の提出を求められます。そこには商号、本店所在地、代表者、資本金と並んで「目的」の欄があり、定款に定めた事業目的がそのまま記載されています。銀行側はこの欄を、会社が何をする会社なのかを公的に確認できる情報として見ています。
つまり「事業目的の口座」という独立した商品があるわけではありません。検索でこの言葉にたどり着いた方の多くは、「定款の事業目的の内容が、法人口座をつくれるかどうかに関係するのか」を知りたいのだと思います。結論から言えば、関係する場面はあります。ただし、目的の文言だけで判断されるのではなく、申込書に書いた事業内容、事務所の実態、代表者の説明との整合性が合わせて見られるのが一般的です。
金融機関がここを丁寧に見る背景には、口座の不正利用やマネー・ローンダリング防止といった要請があります。そのため近年は、新設法人の口座開設で事業内容の確認が細かくなったという声が実務でよく聞かれます。審査の基準そのものは各金融機関が公表していないため、ここでは「説明を求められやすいポイント」として読んでください。
審査で引っかかりやすい事業目的の書き方
まず多いのが、実態と記載がズレているケースです。たとえば実際はWeb制作だけをしている会社なのに、目的欄の先頭に飲食店経営や不動産売買が並んでいると、銀行の担当者は「この会社は結局何をするのか」を確認したくなります。目的の順番は登記上の優劣を意味しませんが、読む側は上から順に会社の主業を推測します。主たる事業を先頭に置くだけで、説明の手間はかなり減ります。
次に、目的の数が極端に多い場合です。将来やるかもしれない事業を思いつく限り並べた定款はよく見かけますが、十数項目が並ぶと実態がつかみにくくなり、追加の資料や説明を求められることがあります。設立時は実際に着手する事業と、近い将来に着手する見込みのあるものに絞り、最後に「前各号に附帯関連する一切の事業」を置く形が扱いやすいとされています。
三つ目は、許認可や登録が必要な業種を含めている場合です。古物商、人材派遣、旅行業、建設業、金融関連などは、目的に記載があると「その許認可は取得済みか」を確認されることがあります。まだ取得していない段階なら、現時点では着手していない旨を正直に伝えるのが無難です。記載があるだけで開設できないと決まるわけではありませんが、説明の準備はしておきたいところです。
銀行ごとに違いはある?みずほ・三井住友・ゆうちょ・楽天銀行の考え方
「みずほ銀行 事業目的」「三井住友銀行 事業目的」のように、金融機関名と組み合わせて検索する方が多いのですが、各行とも具体的な審査基準や、どの事業目的なら通るといった情報は公表していません。ネット上に出回る「この銀行はこの業種に厳しい」といった話は、個別の体験談の域を出ないため、そのまま鵜呑みにしないほうがよいでしょう。
ただし、金融機関のタイプによって手続きの進み方に傾向はあります。メガバンク(みずほ銀行、三井住友銀行など)は窓口や本支店での手続きが中心で、事業内容の確認資料を求められることが比較的多いと言われます。ネット銀行(楽天銀行など)はオンラインで完結しやすい一方、入力した事業内容と登記の目的の整合が機械的に見られるため、記載の食い違いが気になる場面があります。ゆうちょ銀行は法人向けの口座として開設できますが、取扱内容や必要書類は他行と異なる部分があるため、事前確認が欠かせません。
現実的な進め方としては、①普段の入出金や決済に使うメイン口座をどこにするかを先に決める、②その金融機関の公式サイトで法人口座開設の必要書類と申込手順を確認する、③不明点は開設予定の店舗やサポート窓口に直接聞く、という順です。手数料やサービス内容、対応業種の扱いは変わることがあるため、各社の公式サイトで最新の情報を確認してください。
口座開設の前にやること:準備の順番と必要書類
口座開設の申し込みは、登記が完了してからが基本です。法務局での設立登記申請後、登記事項証明書と印鑑証明書が取得できるようになったら、まずこの2点を用意します。あわせて、会社の実印(登記した印鑑)、銀行印として使う印鑑、代表者本人の本人確認書類(運転免許証やマイナンバーカードなど)を揃えます。定款の写しを求められることもあるため、設立時の書類一式は手元にまとめておくと安心です。
次に、事業内容を説明する材料を準備します。自社のWebサイト、サービス紹介の資料、取引先との契約書や発注書、見積書の控え、事務所の賃貸借契約書などが該当します。設立直後で取引実績がない場合は、事業計画書や、これから取引予定の相手先が分かる資料があると説明しやすくなります。ここで用意する資料が、登記簿の事業目的と矛盾していないかを一度見比べておいてください。
申し込み先は、店舗での手続きなら本店所在地の近くの支店、オンライン完結型ならその金融機関の申込ページです。申込書の「事業内容」欄には、目的欄の法律用語をそのまま写すのではなく、誰に何を提供して、どこから収入を得るのかを平易な言葉で書くと伝わりやすくなります。売上の入金元と、主な支払先も説明できるようにしておきましょう。
事業目的を変えたいときの手順と、変えずに対応する方法
すでに設立済みで、目的の記載を見直したい場合は、株主総会の特別決議で定款を変更し、法務局に目的変更の登記を申請します。登記申請には期限の定めがあり、決議から一定期間内に手続きすることとされています。登録免許税がかかるほか、司法書士に依頼する場合は報酬も発生しますので、費用と手間を考えると、口座開設のためだけに急いで変更するかどうかは慎重に判断したいところです。
変更せずに対応できる場面もあります。たとえば目的が多いことが気になるなら、申込書や面談で「現在稼働しているのはこの事業です」と明確に伝え、その裏づけとなる契約書や請求書を示す方法です。許認可が必要な目的が含まれている場合も、現時点では当該事業を行っていないことと、将来着手する際は所定の許認可を取得する予定であることを説明する形が一般的です。
一方で、これから設立する方は、この段階で整えておくのが最も費用がかかりません。①実際に始める事業を1〜3項目、②3年以内に着手する可能性が高いものを数項目、③附帯関連事業の一文、という構成を目安にしてください。文言に迷ったら、同業他社の登記簿の記載を参考にする、あるいは定款作成を依頼する司法書士や行政書士に相談するのが早道です。
それでも開設が進まないときに確認したいこと
申し込みが進まない理由は、事業目的だけとは限りません。よくあるのは、本店所在地がバーチャルオフィスや自宅で、事業の実態が確認しづらいケース、資本金が極端に少ないケース、代表者の連絡が取りにくいケースなどです。金融機関は理由を詳しく説明しないことが多いため、こちら側で説明材料を増やしていくしかありません。
打ち手としては、事業の実態を示す資料を追加する、Webサイトや会社案内を整える、固定電話や事業用のメールアドレスを用意する、といった地道な対応が中心になります。また、メイン候補の1行だけに絞らず、タイプの違う金融機関(メガバンク、地方銀行、信用金庫、ネット銀行)を並行して検討しておくと、事業の立ち上げが止まりにくくなります。地域密着の信用金庫は、対面で事業内容を説明できる点が向いている会社もあります。
なお、口座開設が進まない状態でも、売上の入金や経費の支払いは待ってくれません。当面は代表者個人の口座で立て替え、帳簿上で明確に区分して管理する方法をとる会社もありますが、記帳や税務上の扱いが複雑になりやすい点には注意が必要です。処理の方法は税理士に確認しながら進めることをおすすめします。
事業目的の書き方は、口座開設だけでなく、許認可の取得、将来の融資や取引先の与信にも関わってきます。定款の文言や目的変更登記については司法書士に、事業内容と税務上の取り扱いの整合については税理士に、早めに相談しておくと、後戻りの少ない形で整えられます。
よくある質問
事業目的が多いと法人口座はつくれませんか。
目的の数だけで判断されるわけではありませんが、項目が多すぎると実際の事業がつかみにくくなり、追加の説明や資料を求められることがあります。申込時に「現在稼働している事業はこれです」と明確に伝え、契約書や請求書などの裏づけを添えると、確認がスムーズに進みやすくなります。
登記した事業目的にない事業を始めても大丈夫でしょうか。
会社の行為が直ちに無効になるとは限りませんが、許認可の申請や金融機関とのやり取りで、目的の記載を求められる場面があります。主たる事業が変わったのであれば、目的変更の登記を検討するのが一般的です。判断に迷う場合は司法書士にご確認ください。
法人口座の開設に定款は必要ですか。
登記事項証明書と印鑑証明書に加えて、定款の写しを求められることがあります。金融機関や申込方法によって必要書類は異なるため、申し込む前に各社の公式サイトで最新の案内を確認してください。
事業目的を変更してから口座を申し込んだほうがよいですか。
変更には株主総会の決議と変更登記、登録免許税などの手間と費用がかかるため、口座開設のためだけに急いで変更する必要があるとは限りません。まずは実態を説明する資料を整え、それでも確認が進まない場合に変更を検討する、という順で考えるとよいでしょう。