契約書の原本はどちらが保管するか|収入印紙と割印の負担の決め方
契約書を2部作って、それぞれ署名押印して、1部ずつ持ち帰る。ここまではなんとなく知っていても、「印紙はどちらが貼るのか」「片方だけ原本でもいいのか」「コピーを保管していれば足りるのか」となると、急に手が止まります。この記事では、契約書の原本をどちらが保管するかの考え方と、収入印紙の負担・貼付の決め方を、実務の順番どおりに整理します。
この記事の結論
- 契約書を2部作成した場合は、当事者がそれぞれ1部ずつ原本を保管するのが一般的で、どちらか一方だけが持つ決まりはありません。
- 収入印紙は課税文書を作成した当事者が連帯して納付する扱いとされており、実務では「各自が自分の保管分に貼る」「折半する」など当事者間の合意で決めることが多いです。
- 原本を1部しか作らない場合は、原本を保管しない側が写し(コピー)を持つ形になり、印紙代を抑えられる一方で証拠力の面で差が出ることがあります。
契約書の原本はどちらが保管する?基本は「1部ずつ」
結論から言うと、契約書を2部作成したときは、甲と乙がそれぞれ1部ずつ原本を保管するのが一般的な実務です。法律で「必ず売主が持つ」「発注側が持つ」と決まっているわけではなく、当事者が同じ内容の原本を1通ずつ持ち合うことで、後から条件を確認したいときにお互いが自分の手元で確認できる状態をつくっています。
「どちらが保管するか」で迷うのは、たいてい1部しか作っていないときです。2部作ってそれぞれ署名押印しているなら、保管の主体は自然に決まります。まずは自社の契約書が何部作成されているか、末尾の「本契約書2通を作成し、各自1通を保有する」といった条項を確認してみてください。
なお、電子契約の場合は原本という概念が紙とは異なり、同じ電子ファイルに双方が電子署名を付した状態で、それぞれがダウンロードまたはシステム上で保存する形になります。この場合「どちらが原本か」という争いは基本的に生じません。
甲乙どちらが持つかは条項で決まる|契約書の末尾を見る
契約書の最後には、作成通数と保有者を定めた条項が置かれているのが通例です。「本契約の成立を証するため、本書2通を作成し、甲乙記名押印のうえ、各自1通を保有する」とあれば、甲乙が1通ずつ原本を持ちます。「本書1通を作成し、甲がこれを保有し、乙はその写しを保有する」とあれば、原本は甲、乙は写しです。
つまり「契約書 甲乙 どちらが保管」の答えは、契約書自身に書いてあることが多い、ということです。自社が相手方から提示された契約書をレビューするときも、この末尾条項は必ず読む箇所のひとつにしてください。1通しか作らない建て付けになっていて、原本が相手方に寄っているなら、2通作成に変更できないか交渉する余地があります。
甲乙の呼び方自体には保管の優劣はありません。一般的には発注者・依頼者・貸主側を甲、受注者・受託者・借主側を乙とすることが多いですが、これも慣行であって決まりではありません。
収入印紙はどちらが負担し、どちらの分に貼るのか
収入印紙が必要な契約書(課税文書)については、その文書を作成した当事者が納付義務を負い、2人以上が共同して作成した場合は連帯して負担する扱いとされています。つまり「作った側だけが払う」のではなく、当事者双方に関わる話だというのが出発点です。
実務でよく使われる決め方は2つです。ひとつは「各自が自分の保管する原本に印紙を貼る」方式で、2通作成なら甲が甲保管分、乙が乙保管分に貼り、結果として負担は等分になります。もうひとつは「印紙代は折半する」「一方が全額負担する」と当事者間で合意する方式です。継続的な取引で印紙の額が大きくなる契約では、契約書本文や覚書で負担を明記しておくと、あとで揉めにくくなります。
どの契約書が課税文書に当たるか、いくらの印紙が必要かは、契約の種類と記載金額によって変わります。判断に迷う文書は、国税庁の公表資料を確認するか、税理士にご確認ください。金額の判定を誤ると、後から過怠税が課されることがあります。
原本を1部だけ作る場合|写しの保管でよいかの判断基準
印紙代を抑えたいという理由から、原本を1通だけ作成し、もう一方はそのコピー(写し)を保管するという運用が選ばれることがあります。この場合、写しにも契約の内容は記録されますが、原本と同等に扱われるとは限らず、争いになったときの証拠としての位置づけに差が出ることがあります。
判断の順番としては、まず①契約期間が長いか、②金額が大きいか、③トラブルになったときに条件の解釈が争点になりやすいか、を見てください。3つのうち2つ以上に当てはまるなら、多少の印紙代をかけてでも2通作成し、双方が原本を持つ形をおすすめできる場面が多いです。逆に、少額・短期・定型的な内容で、注文書や仕様書など裏づけとなる書類が別にある取引なら、1通作成でも実務が回ることがあります。
写しを保管する側は、コピーに「原本と相違ない」旨の記載や押印を求めない運用が一般的です。そうした記載をすると、写し自体が課税文書として扱われることがあるためです。判断が分かれる論点なので、扱いに迷う場合は税理士に確認してください。
割印・契印・製本|押す場所と、誰の印を押すか
2通の契約書を作ったとき、2通を少しずらして重ね、またがるように押すのが割印です。同一の契約書が2通存在することと、両者が同じ内容であることを示す目的で押します。一方、1通の契約書が複数ページにわたるとき、ページのつなぎ目に押すのが契印で、ページの差し替えを防ぐ意味があります。製本テープで綴じた場合は、テープと表紙にまたがって押す形になります。
割印・契印は法律上の要件ではありませんが、実務では押しておくのが通例です。押す印は、契約書本文に押した印と同じものを使うのが分かりやすく、当事者双方が押します。片方だけが押している状態だと、後から「この2通は別物では」と指摘されたときに説明しづらくなります。
印紙を貼ったときの消印も忘れやすいポイントです。印紙と文書にまたがるように押印または署名をして、印紙を再使用できない状態にします。消印は当事者の一方が行えば足りるとされており、契約印とは別の印でも差し支えないとされています。
契約締結後の保管|どこに、いつまで、どう残すか
原本を受け取ったら、その日のうちに保管場所を決めてしまうのが実務上いちばん確実です。おすすめの順番は、①契約書を施錠できるキャビネットなど決まった場所に入れる、②表紙または管理台帳に「相手方名・契約名・締結日・契約期間・自動更新の有無・解約通知期限」を書き出す、③スキャンしてファイル名を「締結日_相手方名_契約名」の形で統一して保存する、の3つです。
保存期間は、法人の帳簿書類として税務上求められる年数と、契約上の請求権が問題になりうる期間の両方を見て決めるのが安全です。実務では「契約終了後も一定期間は捨てない」という運用にしている会社が多く、契約期間が終わったからといってすぐ処分しないほうがよい場面があります。年数の具体的な基準は、国税庁の資料を確認するか、顧問税理士にご確認ください。
スキャンした電子データの保存については、電子帳簿保存法の考え方が関わる場面があります。紙で受け取った契約書の原本をいつ廃棄してよいかは要件の確認が必要な論点なので、詳細は国税庁の公表資料を確認し、自社の運用に落とし込む段階で税理士に相談することをおすすめします。
契約書の原本や印紙の負担でトラブルになりやすいのは、相手方との力関係で条件が一方的になっているときです。契約条項の解釈や交渉の進め方は弁護士、印紙税の要否・金額や保存の実務は税理士など、内容に応じた専門家に早めに相談してみてください。
よくある質問
契約書は2部作らないといけませんか?
必ず2部でなければならないという決まりはなく、1部だけ作成して一方が原本、他方が写しを保管する運用も見られます。ただし写しは原本と同等に扱われるとは限らないため、金額が大きい契約や期間の長い契約では2部作成を検討するとよいでしょう。
収入印紙は相手方が貼ってくれるものですか?
課税文書の印紙税は、共同で作成した当事者が連帯して負担する扱いとされており、どちらか一方の義務と決まっているわけではありません。実務では「各自が自分の保管分に貼る」「折半する」など合意で決めることが多いので、締結前に確認しておくと安心です。
契約書のコピーだけを保管していても大丈夫でしょうか?
内容の確認という点ではコピーでも足りますが、争いになったときの証拠としての位置づけは原本と異なることがあります。原本が相手方にしかない状態が続くなら、次回の更新時に2通作成へ変更できないか相談してみてください。
割印がない契約書は無効になりますか?
割印は法律上の要件ではないため、割印がないことだけを理由に契約が無効になるとは一般に考えられていません。ただし2通の同一性を示す実務上の意味があるため、押しておくほうが後の説明がしやすくなります。