取締役会議事録の書き方|代表取締役の交代・利益相反取引の記載
取締役会(役員会)の議事録は、決めた内容を社内に残すためだけの書類ではありません。代表取締役の交代を登記するとき、利益相反にあたる取引を進めるとき、その取引が有効だと後から説明するとき、いずれも議事録が根拠になります。この記事では、まず全社共通の「型」を押さえ、そのうえで代表取締役の交代、役員変更、利益相反取引、過去の取引の追認という、実務でつまずきやすい4つのケースの書き方を整理します。取締役会を置いていない会社はどうするかも合わせて説明します。
この記事の結論
- 取締役会議事録には、開催日時・場所、出席した取締役と監査役、議長、議案ごとの議事の経過の要領とその結果を記載し、出席した取締役と監査役が署名または記名押印するのが基本の形です。
- 代表取締役の交代を決議したときは、旧代表者の辞任と新代表者の選定を分けて記載し、新代表者が席上で就任を承諾した旨まで書いておくと、登記手続きで使いやすい議事録になります。
- 利益相反取引を承認するときは、取引の相手方・内容・条件を具体的に書き、特別の利害関係を持つ取締役は決議に加わらなかった旨を明記します。
取締役会(役員会)の議事録には何を書くのか
取締役会議事録の骨格は、会社法と法務省令でおおまかに決まっています。開催した日時と場所、出席した取締役・監査役の氏名、議長の氏名、議事の経過の要領とその結果、そして議事録を作成した取締役の氏名です。テレビ会議やウェブ会議で開いたときは、その方法(出席者が相互に議論できる状態だった旨)も書き添えます。
「議事の経過の要領」とは、発言をすべて書き起こすという意味ではありません。どの議案について、誰がどんな説明をし、どんな質疑があって、どう決まったか、が後から読んで追えれば足ります。逆に、結論だけを一行書いた議事録は、後で取引の有効性が問題になったときに説明材料として弱くなります。
記載の順番は、①表題、②開催日時・場所・出席者、③議長の開会宣言と定足数を満たしている旨、④議案ごとの経過と結果、⑤閉会、⑥署名押印欄、と並べるのが読みやすい形です。社内で一度テンプレートを作り、議案部分だけ差し替えて運用すると、作成漏れが減ります。
署名・押印はどこまで必要か
取締役会議事録には、出席した取締役と監査役が署名または記名押印します。書面で作る場合の押印は、原則として個人の実印である必要はなく、認印でも差し支えないのが一般的な整理ですが、登記に使う場面では扱いが変わることがあります。とくに代表取締役の変更を登記するときは、議事録に押された印について、市区町村に登録された印鑑であることを証する書面(印鑑証明書)の添付を求められる場合があります。
例外として、従前の代表取締役が取締役会に出席し、会社届出印で押印しているときは、他の取締役の印鑑証明書の添付が不要とされる取り扱いがあります。ここは会社ごとの事情で結論が変わりやすい部分なので、登記を前提にした議事録を作るときは、作成前に司法書士に確認しておくと手戻りがありません。
電子署名で作成することもできます。クラウド型の契約サービスで取締役会議事録を回している会社もありますが、登記申請に使えるかどうかは電子証明書の種類によって扱いが異なります。電子化を進める場合は、法務局や所管官庁の資料で最新の要件を確認してください。
代表取締役の交代・役員変更を決議したときの書き方
代表取締役の交代は、まず「誰が辞め、誰が就くか」を分けて書くのが鉄則です。旧代表者が代表取締役だけを降りて平取締役として残るのか、取締役そのものを辞任するのかで、登記する内容が変わります。議事録でも、「代表取締役を辞任する旨の申出があり、これを承認した」なのか「取締役を辞任した」なのかを書き分けます。
新代表者については、「取締役◯◯を代表取締役に選定する旨を諮ったところ、全員異議なくこれを承認可決した」と書き、続けて「被選定者は席上その就任を承諾した」と入れます。この一文があると、別途の就任承諾書がなくても登記で使える場合があります。住所の記載が必要になることもあるため、事前に司法書士に確認しておくと安心です。
役員変更のうち、取締役や監査役そのものの選任は株主総会の決議事項です。取締役会で決められるのは、選任された取締役の中から代表取締役を選定することなど、取締役会の権限とされている事項に限られます。「役員変更 議事録」で検索してたどり着いた方は、まず自社の変更が株主総会マターか取締役会マターかを切り分けるところから始めてください。任期満了による改選なら株主総会議事録、代表者の変更だけなら取締役会議事録、という順で考えると整理しやすくなります。
利益相反取引の承認は、議事録にどこまで書くか
取締役が自分や自分の会社のために会社と取引する場合(直接取引)や、会社が取締役の債務を保証する場合(間接取引)は、取締役会の承認が必要とされています。社長個人が所有する不動産を会社に貸す、社長個人が会社にお金を貸す、社長が代表を務める別会社と売買する、といったよくある場面が該当します。
議事録には、取引の相手方、取引の種類、目的物、金額や期間などの条件を、後から見て内容が特定できる程度に書きます。「代表取締役との金銭消費貸借契約を承認した」だけでは薄く、貸主・借主のどちらが会社か、元本、返済方法、利息の有無まで書いておくほうが安全です。条件の妥当性を検討した経過も、一行でも残しておくと説明しやすくなります。
もう一つ欠かせないのが、特別の利害関係を有する取締役の扱いです。当事者である取締役は決議に加われないため、「取締役◯◯は本議案につき特別の利害関係を有するため、審議および決議に参加しなかった」と明記し、定足数と賛成数もその取締役を除いた数で数えます。加えて、取引後には重要な事実を取締役会に報告することが求められるため、次回以降の議事録に報告事項として残す運用にしておくと抜けません。
取締役会を設置していない会社では、利益相反取引の承認は株主総会の決議事項になります。この場合も記載すべき内容は同じで、「利益相反 株主総会 議事録」として、取引の内容と条件、当事者である取締役・株主の扱いを書きます。ひとり社長の会社でも承認の手続き自体は必要と考えられるため、書面として残しておいてください。
承認を取らずに進めた取引を追認するときの議事録
実務では、先に契約してしまってから「これは利益相反だった」と気づくことがあります。この場合、後から取締役会(または株主総会)で承認する、いわゆる追認の決議をすることが考えられます。追認をしたからといってすべてが遡って整理されるわけではありませんが、会社としての意思を明確にしておく意味はあります。
追認の議事録では、事実関係を隠さずに書くのがポイントです。①いつ、誰と、どんな取引をしたか、②承認を得ないまま実行していた事実、③その経緯と理由、④取引条件の妥当性を検討した内容、⑤これを追認する旨、の順に並べます。日付を遡らせて作成した議事録は、後で信用を損なう原因になりますので避けてください。
追認が必要そうな取引が見つかったときは、税務上の扱い(役員への貸付や賃料の水準など)が問題になることもあります。会社法の観点と税務の観点は別々に検討が必要なため、まず司法書士や弁護士に会社法上の手当てを、続いて税理士に税務上の取り扱いを確認する、という順で相談すると話が早く進みます。
作成から保存まで、実務の流れ
流れとしては、開催前に議案と資料を準備し、当日は議事をメモしながら進め、開催後おおむね数日以内に議事録を起案して出席者に回付し、署名押印をそろえて保存する、という形になります。登記が絡む議案があるときは、議事録の完成を待ってから司法書士に渡す必要があるため、変更の登記に期限があることを前提に逆算してスケジュールを組んでください。
保存については、取締役会議事録を本店に一定期間備え置くことが求められています。紙で作った原本は、契約書などと同じファイルにまとめず、「議事録」として通し番号で綴じておくと、後から特定の決議を探すときに困りません。電子データで作る場合も、決議日と議案名がファイル名から分かるようにしておくと検索しやすくなります。
小さな会社ほど、取締役会を開いた実態はあるのに議事録だけが残っていない、という状態になりがちです。まずは「代表者の変更」「利益相反にあたる取引」「重要な財産の処分」の3つだけでも、決議のたびに議事録を作る運用から始めてみてください。
なお、この記事は一般的な考え方の整理です。登記に使う議事録の記載や押印・添付書類の要否は、会社の機関設計や個別の事情で結論が変わります。代表取締役の交代や役員変更の登記は司法書士に、利益相反取引の有効性や契約内容の整理は弁護士に、取引にともなう税務上の扱いは税理士に、それぞれ早めにご相談ください。
よくある質問
取締役会議事録に押す印は実印でなければいけませんか。
社内保存が目的であれば、認印での記名押印でも差し支えないのが一般的な整理です。ただし代表取締役の変更登記などに使う場合は、押印した印の印鑑証明書の添付を求められることがあり、従前の代表者が会社届出印で押しているかどうかでも扱いが変わります。登記を前提にするときは、作成前に司法書士に確認してください。
取締役会を設置していない会社でも議事録は必要ですか。
取締役会がない会社では、代表取締役の選定や利益相反取引の承認は株主総会や取締役の過半数の決定で行うことになり、その内容を株主総会議事録などの形で残します。ひとり社長の会社でも、決定の記録を書面で残しておくことが望ましいと考えられます。形式に迷う場合は司法書士に相談すると整理しやすくなります。
社長個人から会社がお金を借りる場合も利益相反にあたりますか。
取締役と会社の間の取引ですので、会社法上の承認が必要になる場面と扱われることがあります。一般に、会社にとって不利益が生じにくい取引は承認不要と整理されることもありますが、判断は条件次第です。議事録を作っておくほうが説明しやすいため、迷ったら弁護士や司法書士にご確認ください。
議事録を作り忘れていた過去の決議は、今から作ってもよいですか。
日付を遡らせて作成することは避け、作成した日を明らかにしたうえで、いつの決議についての記録かを明記する形が考えられます。承認を取らずに進めた取引であれば、追認の決議として経緯を含めて記載する方法もあります。影響範囲が読みにくい場合は、弁護士に相談のうえ進めてください。