海外の住所で法人登記や代表者登記はできるか|条件と実務上の注意

・住所・オフィス・会社のはじめかた編集部(監修:田中 祐介)

「海外に住んだまま日本で会社をつくれるのか」「代表者の住所欄に海外の住所を書けるのか」「登記は英語で表記できるのか」。この3つは、まったく別の話です。本店の住所と、代表者個人の住所と、登記に使う言語は、それぞれルールが違います。ここを分けて理解しておくと、手続きで迷う場面がぐっと減ります。この記事では、どこまでが可能で、どこからが実務上の壁になるのかを、判断の順番に沿って整理します。

この記事の結論

  • 日本法に基づいて設立する会社の本店所在地は、日本国内の住所を登記するのが前提で、海外の住所をそのまま本店として登記することは想定されていません。
  • 代表取締役や取締役の住所は海外の住所でも登記できる取扱いになっており、印鑑証明書の代わりに現地の公証人や在外公館が発行する署名証明(サイン証明)などを用意します。
  • 日本の商業登記は日本語で行うため住所は日本語表記が原則で、英語の証明が必要な場合は登記事項証明書の訳文を用意して公証を受けるなどの対応をとります。

日本の会社の本店住所に、海外の住所は使えるのか

まず結論から整理します。日本の会社法に基づいて設立する株式会社や合同会社は、日本国内に本店を置くことが前提の制度設計になっています。定款で「本店の所在地」を定め、その所在場所を管轄する法務局に登記申請をする仕組みなので、海外の住所をそのまま本店として登記するという形は想定されていません。

「代表者は海外にいるが、会社は日本の会社にしたい」という場合は、日本国内に本店となる住所を用意することになります。自宅、シェアオフィス、バーチャルオフィス、知人の会社の一室など選択肢はありますが、住所を借りる場合は「登記利用が可能か」を契約前に必ず確認してください。登記利用を認めていない物件や、追加の申込みが必要なサービスもあります。

逆に、海外の会社が日本で活動したい場合は、日本法人を新たにつくる(子会社設立)か、外国会社として日本における営業所などを登記する(支店登記)という別の道になります。こちらは後半で触れます。

代表取締役や取締役の住所は海外でも登記できるのか

役員個人の住所については、海外の住所で登記することができる取扱いになっています。以前は「代表取締役のうち1名以上は日本に住所を有すること」という運用がありましたが、2015年に法務省がこの取扱いを変更し、代表取締役の全員が海外在住でも株式会社の設立登記を受け付ける扱いになりました。したがって、日本に住民票がない人だけで日本の会社を設立すること自体は可能です。

問題になるのは添付書類です。日本に住所がある人なら印鑑証明書で本人確認と意思確認をしますが、海外在住者は住民票も印鑑証明書もないことが多く、代わりに在外公館(日本国大使館・領事館)が発行する署名証明(サイン証明)や、現地の公証人が作成した宣誓供述書(アフィダビット)などを使う方法がとられます。外国語で作成された書面には日本語の訳文を添えるのが一般的です。

どの書類でどこまで代用できるかは、会社の形態、申請する登記の種類、そして管轄法務局の判断によって差が出ることがあります。海外在住者が関わる登記は、事前に管轄法務局か司法書士に「この書類の組み合わせで足りるか」を確認してから、現地で証明書を取りにいくのが安全です。現地の公証や領事館の予約に時間がかかることもあるため、スケジュールには余裕を持たせてください。

なお、2024年10月から、一定の要件を満たす場合に代表取締役等の住所の一部を登記事項証明書上で表示しない措置(代表取締役等住所非表示措置)が設けられています。プライバシーの観点で気になる方は、要件と申出方法を法務省・法務局の資料でご確認ください。

登記上の住所は英語で書けるのか|「登記 住所 英語」の実務

日本の商業登記は日本語で行われます。したがって、海外の住所を登記する場合も、原則として日本語表記(漢字・カタカナ)に置き換えて記載します。たとえば州名や市名はカタカナ、番地は算用数字という形で、原文の順序をそのまま並べるのではなく、日本の登記簿になじむ書き方に整えるのが通例です。表記ゆれが後の変更登記で面倒を生むので、最初にどう書くか決めたらメモに残し、以後の書類で統一してください。

「英語の登記簿がほしい」と言われる場面もあります。海外の銀行口座開設、海外取引先とのKYC、海外子会社の設立などで求められるケースです。法務局が英文の登記事項証明書を発行するわけではないため、実務では日本語の登記事項証明書を取得したうえで英訳を作成し、公証役場で翻訳者の宣誓や私文書の認証を受け、必要に応じてアポスティーユや領事認証を付ける、という流れをとることが多くなります。

商号については、ローマ字を含む商号の登記が認められています。また外国人役員の氏名について、カタカナ表記にローマ字表記を併記する取扱いも設けられています。細かい記載ルールは改正が入る分野なので、最新の取扱いは法務局または司法書士にご確認ください。

登記できても残る壁|口座・印鑑・税務・社会保険

登記が通ることと、会社が回ることは別問題です。まず法人口座。金融機関は、代表者の本人確認や事業実態の確認を重視します。代表者が海外在住で日本に来所できない、国内に連絡先や事業拠点が乏しい、といった状況では審査に時間がかかったり、申込み自体が難しくなることがあります。口座を必要とする時期が決まっているなら、設立前の段階で複数の金融機関に条件を確認しておくとよいでしょう。

次に税務です。会社が日本に本店を置く以上、法人税や消費税などの申告義務は日本で発生します。代表者が国外にいて手続きができない場合、税務署への各種届出や申告について納税管理人を定めて届け出る必要が出てくることがあります。どの届出がいつ必要か、また代表者個人の課税関係がどうなるかは、居住国との租税条約や滞在状況によって扱いが変わりますので、税理士にご確認ください。

労務面では、日本に居住していない役員の社会保険の適用や、国内で従業員を雇う場合の手続きが論点になります。適用の可否や届出のタイミングは個別事情で判断が分かれるため、社会保険労務士に相談するのが確実です。加えて、許認可が必要な事業では「国内に責任者や事務所があること」を要件にしているものがあり、ここが実質的なハードルになることもあります。

外国会社が日本に出るとき|支店登記と子会社設立の選び方

すでに海外に会社があり、日本で事業を始めたいという場合は、外国会社として日本における代表者を定めて営業所等の登記をする方法(いわゆる支店登記)と、日本に新しく株式会社や合同会社をつくる方法(子会社設立)があります。会社法では、外国会社が日本で継続して取引をするには日本における代表者を定める必要があり、そのうち1名以上は日本に住所を有する者でなければならないとされています。ここが日本法人の設立と大きく違う点です。

迷ったら、この順に見てください。第一に「日本に住所のある代表者を置けるか」。置けないなら支店登記の要件を満たせないため、日本法人の設立を検討する流れになります。第二に「取引先や金融機関が、日本法人格を求めているか」。日本法人のほうが口座開設や与信で説明しやすい場面があります。第三に「本国の親会社と責任・会計をどこまで切り離したいか」。支店は本国の会社の一部として扱われ、子会社は別法人です。

税務上の扱い(恒久的施設の判定や申告範囲)は、支店か子会社かで大きく変わります。ここは設立形態を決める前に税理士へ相談する価値が高い部分です。登記の要否や添付書類は司法書士に、在留資格が絡むなら行政書士にも並行して確認すると、後戻りが減ります。

今すぐ動くなら|準備の順番と相談先

進め方としては、まず①日本国内の本店住所を確保できるか(登記利用の可否を契約前に確認)、②代表者・役員の本人確認書類を現地でどう用意するか(在外公館の署名証明か、現地公証人の宣誓供述書か)、③訳文と住所の日本語表記を決める、④法人口座と税務の受け皿を誰が担うか、の順に固めていくと整理しやすくなります。書類の取得に時間がかかるのは②なので、ここから逆算して全体のスケジュールを引いてください。

提出先は、設立登記であれば本店所在地を管轄する法務局です。設立後の税務関係の届出は所轄の税務署と地方自治体、従業員を雇うなら年金事務所や労働基準監督署・ハローワークが窓口になります。海外要素が入ると「どの窓口にいつ何を出すか」が分かりにくくなるため、一覧表にして期限を書き込んでおくと安心です。

海外在住者が関わる登記は、添付書類の作り方ひとつで受理されるかどうかが変わります。登記手続きの具体的な組み立ては司法書士に、法人・個人の課税関係や納税管理人の要否は税理士に、役員や従業員の社会保険・労働関係は社会保険労務士に、契約や進出形態の法的リスクは弁護士に、早い段階でご相談ください。制度の詳細や最新の取扱いは、法務省・法務局および国税庁など所管官庁の資料もあわせてご確認ください。

よくある質問

海外に住んだまま、日本で株式会社を設立できますか。

代表取締役が全員海外在住でも設立登記を受け付ける取扱いになっているため、制度上は可能とされています。ただし本店は日本国内の住所を用意する必要があり、印鑑証明書の代わりに在外公館の署名証明などをそろえる手間がかかります。書類の組み合わせは事前に管轄法務局か司法書士にご確認ください。

登記事項証明書を英語で発行してもらえますか。

日本の商業登記は日本語で行われるため、英文の証明書がそのまま発行されるわけではありません。海外の銀行や取引先に提出する場合は、日本語の証明書を取得したうえで英訳を作成し、公証役場での認証やアポスティーユを付ける対応が一般的です。提出先が求める形式を先に確認しておくと二度手間を防げます。

代表取締役の海外住所は、登記簿で誰でも見られてしまいますか。

登記事項証明書は誰でも取得できるため、原則として住所も記載されます。ただし2024年10月から、一定の要件のもとで代表取締役等の住所の一部を表示しない措置が設けられています。要件や申出の方法は法務省・法務局の案内をご確認ください。

海外の会社の住所で、日本の支店を登記できますか。

外国会社が日本で継続的に取引をする場合は、日本における代表者を定めて登記する必要があり、そのうち1名以上は日本に住所を有する者であることが求められます。日本に住所のある代表者を置けない場合は、日本法人の設立を検討する流れになります。税務上の扱いが形態で変わるため、決める前に税理士にもご相談ください。

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この記事は一般的な情報をまとめたものです。税務・法務・労務の個別の判断については、税理士・弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。 料金や条件は変わることがあるため、お申し込み前に必ず各サービスの公式サイトで最新の内容をご確認ください。