本店移転で登記簿はどうなるか|閉鎖事項証明書と履歴事項証明書の使い分け
本店を移転したあと、「登記簿謄本を出してください」と言われて取り寄せたら、思っていた情報が載っていない——。管轄をまたぐ本店移転では、旧本店の登記記録が閉鎖され、新しい管轄で新しい記録がつくられるため、こうしたズレが起きます。この記事では、閉鎖された登記記録がどう扱われるか、閉鎖事項証明書と履歴事項全部証明書のどちらを取ればよいか、そしてそれぞれをどこでどう請求するかを、提出先ごとの判断基準つきで整理します。
この記事の結論
- 管轄をまたぐ本店移転をすると旧本店の登記記録は閉鎖され、その内容は「閉鎖事項証明書」で、移転後の会社の現在の状態は「履歴事項全部証明書」で証明します。
- 閉鎖事項証明書も履歴事項全部証明書も、コンピュータ化された登記記録であれば管轄外の法務局の窓口やオンライン請求で取得できるのが一般的です。
- 銀行や取引先への提出は履歴事項全部証明書、過去の本店所在地や旧管轄時代の登記内容を示す必要があるときは閉鎖事項証明書、と使い分けます。
本店移転で登記簿が「閉鎖」されるのはどんなときか
まず押さえたいのは、本店移転には「同じ法務局の管轄内での移転」と「管轄をまたぐ移転」の二種類があり、登記記録の扱いが変わるという点です。管轄内の移転であれば、これまでの登記記録がそのまま使われ、旧本店の所在地に下線が引かれて新しい本店が記録されます。登記記録は閉鎖されないので、履歴事項全部証明書を取れば移転の経緯もそのまま読み取れます。
一方、管轄をまたぐ移転(たとえば東京都内から隣県へ、あるいは同じ都道府県内でも別の法務局の管轄区域へ移る場合)では、旧管轄の登記所にあった登記記録が閉鎖され、新管轄の登記所に新しい登記記録が起こされます。この閉鎖された記録を証明するのが「閉鎖事項証明書」で、いわゆる「閉鎖謄本」と呼ばれることもあります。
自社の移転が管轄内か管轄外かは、法務局のウェブサイトで公開されている管轄一覧で、旧住所と新住所それぞれがどの法務局(または支局・出張所)の管轄かを確認すれば判断できます。同じ市区町村内でも管轄が分かれている地域があるため、「近いから同じ管轄だろう」と思い込まず、住所単位で確認しておくと安全です。
閉鎖事項証明書と履歴事項全部証明書は何が違うのか
履歴事項全部証明書は、現在効力のある登記事項に加えて、一定期間内に抹消された事項や変更前の事項も含めて証明するものです。ただしここで注意したいのは、記載されるのは「その登記所に現在ある登記記録の内容」だという点です。管轄外移転をした直後の新しい登記記録には、商号・本店・目的・役員などの現在の内容と、移転してきた旨は載りますが、旧管轄時代に行われた役員変更や増資の履歴までは引き継がれないのが通常です。
これに対して閉鎖事項証明書は、閉鎖された旧管轄の登記記録に記載されていた内容を証明します。旧本店の所在地、そこでの商号や役員の変遷、そして本店移転により記録が閉鎖された旨などが分かります。過去をたどる必要があるときの資料、と考えると位置づけがつかみやすいはずです。
そのほか、現在の登記事項だけを簡潔に示す「現在事項全部証明書」、株主リストなどとあわせて一部の事項だけを示す「一部事項証明書」もあります。提出先から単に「登記簿謄本」と言われた場合、実務上は履歴事項全部証明書を指していることが多いのですが、種類を指定されているかどうかは必ず提出先に確認してから取得しましょう。
閉鎖事項証明書はどこで取れるか|請求の手順
請求の前に用意するものは、会社の商号(登記されている正確な表記)、旧本店の所在地、そして分かれば会社法人等番号です。会社法人等番号は本店移転で変わらないため、移転後の履歴事項全部証明書や登記完了後の書類から確認できます。番号が分かると、窓口でもオンラインでも会社の特定がスムーズです。
取得方法は大きく三つあります。一つ目は法務局の窓口で、交付申請書に「閉鎖事項証明書」と種別を記入して請求する方法です。コンピュータ化された登記記録であれば、登記情報交換のしくみにより、管轄外の法務局の窓口でも請求できるのが一般的です。二つ目は郵送請求、三つ目は登記・供託オンライン申請システムを使ったオンライン請求で、窓口受取と郵送受取のどちらかを選べます。
注意が必要なのは、登記記録がコンピュータ化される前の古い紙の登記簿(閉鎖登記簿)です。この場合は取り扱える登記所が限られ、旧本店を管轄していた法務局でしか取得できないことがあります。また、閉鎖された記録には保存期間の定めがあり、古いものは交付を受けられない場合もあります。設立から時間が経っている会社や、移転を何度も繰り返している会社は、事前に旧管轄の法務局へ電話で在否を確認してから動くと二度手間になりません。
手数料は証明書の種類や請求方法によって異なり、改定されることもあります。最新の金額は法務局の公式サイトで確認してください。
どちらを取ればいいか|提出先別の判断の順番
迷ったら、次の順に考えます。第一に、提出先が「現在の会社の状態」を知りたいのか、「過去の事実」を知りたいのか。銀行口座の名義変更、取引先の与信審査、許認可の申請、補助金の申請といった場面は前者にあたることがほとんどで、履歴事項全部証明書を取っておけば足りるのが通常です。
第二に、提出先が「旧本店の所在地にいたこと」や「旧管轄時代の登記内容」を確認したい場合。たとえば、旧本店の住所で契約していた不動産や許認可の名義整理、過去の登記事項をさかのぼって確認したいという場面では、閉鎖事項証明書が求められることがあります。この場合は履歴事項全部証明書だけでは情報が足りず、二通を並べて初めて経緯がつながります。
第三に、提出先の指定が曖昧なとき。「登記簿謄本一通」としか書かれていない場合は、履歴事項全部証明書を基本としつつ、移転が最近であることを伝えて、閉鎖事項証明書もあわせて必要かどうかを確認しておくと安心です。証明書には発行から三か月以内などの有効期間を求められることが多いので、取得のタイミングも提出予定日から逆算して決めましょう。
移転登記そのものの流れと、登記後にやること
本店移転の登記は、まず社内の意思決定から始まります。定款に本店の最小行政区画(市区町村など)まで記載されている会社が、その区画をまたいで移転する場合は定款変更が必要になるため株主総会の決議が要ります。同じ区画内での移転であれば、取締役の決定または取締役会決議で具体的な所在場所を定めるのが一般的です。自社の定款の記載ぶりをまず確認してください。
次に登記申請です。移転の効力が生じた日から二週間以内に申請するのが原則で、管轄をまたぐ場合は旧本店所在地分と新本店所在地分をあわせて、旧本店の管轄登記所に提出する扱いになります。申請書には議事録や決定書などの添付書類が必要で、会社の機関設計によって必要書類が変わります。詳しい様式や添付書類は法務局の公式サイトの記載例を確認するか、司法書士に依頼するのが確実です。
登記が完了したら、履歴事項全部証明書を取得して内容を確認し、印鑑カードの取り扱い(管轄が変わる場合は新管轄での手続きが必要になることがあります)を済ませます。そのうえで、税務署・都道府県税事務所・市区町村への異動届、年金事務所・労働基準監督署・ハローワークへの所在地変更、銀行口座や取引先への通知、許認可の変更届へと進みます。提出先ごとに求められる証明書の種類と通数が違うので、一覧にして必要通数をまとめてから取得すると、窓口に何度も行かずに済みます。
よくあるつまずきと、その回避のしかた
一つ目は、移転後に取った履歴事項全部証明書を見て「過去の役員変更が消えている」と慌てるケースです。これは管轄外移転で新しい登記記録が起こされたことによるもので、旧管轄時代の履歴は閉鎖事項証明書側に残っています。過去の経緯を示す必要があるときは二通セットで用意する、と覚えておくと落ち着いて対応できます。
二つ目は、許認可や補助金の締切直前に必要な証明書の種類が判明し、旧管轄の法務局でしか取れないことが分かって間に合わなくなるケースです。とくに古い閉鎖登記簿が絡む場合は在否の確認に時間がかかることがあります。移転が決まった時点で、関係する提出先に「移転後にどの証明書が何通必要か」を先に問い合わせておくのが有効です。
三つ目は、登記だけ済ませて各種届出が漏れるケースです。税務・社会保険・労働保険はそれぞれ提出先も期限も異なり、扱いは会社の状況によって変わります。制度の詳細な要件は所管官庁の資料で確認し、判断に迷う部分は税理士・社会保険労務士に確認してください。
登記手続きそのものや、定款変更の要否、閉鎖された登記記録の取り扱いについて不安がある場合は、司法書士に相談すると手戻りを防げます。移転にともなう税務上の取り扱いは税理士へ、従業員の労働保険・社会保険の変更は社会保険労務士へ、それぞれ早めに相談することをおすすめします。
よくある質問
本店移転をすると、以前の登記簿はもう見られなくなりますか。
管轄をまたぐ移転で旧本店の登記記録が閉鎖されても、内容は「閉鎖事項証明書」として証明を受けられるのが一般的です。ただし閉鎖された記録には保存期間があり、古いものは交付を受けられないことがあるため、必要になりそうなら早めに取得しておくと安心です。
閉鎖事項証明書は、移転先の近くの法務局でも取れますか。
コンピュータ化された登記記録であれば、登記情報交換のしくみにより管轄外の法務局の窓口やオンライン請求でも取得できるのが通常です。一方、コンピュータ化前の紙の閉鎖登記簿は旧管轄の法務局でしか扱えないことがあるため、事前に電話で確認しておくとよいでしょう。
銀行や取引先に出すのは履歴事項全部証明書と閉鎖事項証明書のどちらですか。
現在の会社の状態を確認したい提出先がほとんどなので、まずは履歴事項全部証明書を用意するのが基本です。旧本店の所在地や過去の登記内容を示すよう求められた場合にのみ、閉鎖事項証明書を追加で取得すれば足りることが多いです。
会社法人等番号は本店移転で変わりますか。
本店移転によって会社法人等番号が変わることはないのが原則です。番号が分かっていれば、閉鎖事項証明書や履歴事項全部証明書を請求する際に会社を特定しやすくなるので、登記完了後の書類などから控えておくとスムーズです。