インボイス制度で増える経理業務の整理|受領から保存までの流れ
インボイス制度が始まってから「請求書を見る時間が増えた」「経費精算のたびに確認事項が増えた」と感じている方は多いはずです。増えた作業の多くは、判断を毎回ゼロから考えていることが原因です。受領から保存までを4つの工程に分け、工程ごとに「誰が・何を見て・どう処理するか」を決めてしまえば、作業は驚くほど軽くなります。この記事では、ひとり社長や少人数のバックオフィスでも回せる、インボイス対応の業務フローの組み立て方を順番に説明します。
この記事の結論
- インボイス対応で増えた経理業務は、受領・確認・記帳・保存の4工程に分解し、工程ごとに社内ルールを決めることで負担を抑えやすくなります。
- 請求書や領収書の確認は、登録番号の有無・記載事項・税率ごとの区分という順にチェックし、判断に迷うパターンだけを一覧化しておくと毎回考える時間がなくなります。
- 紙とデータが混在していると管理コストが二重にかかるため、受取方法をデータに寄せたうえで、紙で届いたものの扱い(スキャナ保存を含む)を先に決めておくのが実務的です。
インボイス制度で事務負担が増えるのはどの工程か
インボイス制度で実際に手が止まるのは、「請求書を見た瞬間」と「保存するとき」の2か所です。取引先が適格請求書発行事業者かどうか、記載事項がそろっているか、税率ごとに分かれているかを、書類を見るたびに判断していると、1枚あたりは数十秒でも積み上がると相当な時間になります。
もうひとつは保存です。紙で届いたもの、メール添付のPDF、取引先のシステムからダウンロードするもの、と入口がばらばらだと、どこに何があるか探す時間が増えます。探す時間は決算期にまとめて跳ね返ってくるので、平常時に入口を整理しておく価値が大きい部分です。
逆に言えば、増えた負担のほとんどは「毎回判断している」「置き場所が決まっていない」の2つに集約できます。まずこの2点を潰す前提で、以下の工程整理を進めます。
受領から保存までを4工程に分けて仕組み化する
業務フローは、①受領 ②確認 ③記帳 ④保存、の4工程に分けて考えます。工程ごとに「入口はどこか」「担当は誰か」「終わったことをどう示すか」を決めるだけで、作業の引き継ぎや外注もしやすくなります。
①受領は、請求書と領収書の受取口を絞る工程です。請求書は経理用のメールアドレスに集約し、紙で届くものは取引先に順次データ送付をお願いする、という方針を決めます。②確認は、後述するチェック順を使って一定時間内に終わらせる工程です。
③記帳は、確認済みの書類だけを会計ソフトに入力・取り込みする工程にします。確認が済んでいないものを記帳すると後戻りが発生するため、順番を守ることが時短につながります。④保存は、保存場所と命名ルールを決め、記帳した時点で必ず所定の場所に入れるところまでを1セットにします。
この4工程を、A4一枚の図にして共有フォルダに置いておくと、担当が増えたときの説明が一度で済みます。
請求書・領収書の確認はこの順番で見る
確認の順番は、上から「登録番号の記載があるか」「発行者名・取引年月日・取引内容・金額があるか」「税率ごとに区分されているか」「自社の宛名が正しいか」の順が扱いやすいです。登録番号を最初に見るのは、ここで分岐が発生し、その後の処理が変わるためです。
登録番号がない書類を受け取ったときは、その場で取引先に問い合わせるのか、そのまま処理して仕入税額控除の扱いを分けるのか、社内のルールを先に決めておきます。経過的な取扱いが設けられている部分もあるため、自社の処理方針は顧問税理士に確認したうえで文書化しておくと安全です。
さらに、少額の経費や公共交通機関の利用など、書類の扱いが通常と異なるケースがあります。こうした「例外パターン」は、遭遇するたびに一覧へ追記していく運用にすると、半年ほどで自社専用の判断表ができあがります。制度上の細かい要件は変更されることもあるため、国税庁の資料で最新の内容を確認してください。
インボイス対応のペーパーレス化とスキャナ保存の考え方
ペーパーレス化は「紙をなくすこと」が目的ではなく、「管理する場所を一つにすること」が目的です。メールで受け取ったPDFなどのデータは、電子帳簿保存法の考え方のもとで、原則としてデータのまま保存する扱いが求められます。まずはこのデータ保存の受け皿を作るのが先で、紙のスキャンはその次の段階です。
紙で受け取った書類をデータ化して保存する方法がスキャナ保存です。導入すると保管スペースは減りますが、解像度や検索できる状態にするなど、満たすべき要件があります。全社で一気に始めるより、まずは経費精算の領収書など枚数の多い種類から試すと、運用の穴を小さく見つけられます。
判断の目安としては、紙の受領が月に数枚程度ならスキャナ保存を無理に始めず、ファイリングと台帳で十分な場合もあります。紙が常時たまり、探す時間が発生しているならデータ化を検討する、という順で考えると失敗が少ないです。要件の詳細は国税庁の資料を確認し、会計ソフトを使う場合は各社の公式サイトで対応状況をご確認ください。
社内ルールとマニュアルはどこまで書けばいいか
マニュアルは分厚くする必要はありません。最低限、「受取口の一覧」「確認の順番」「保存場所と命名ルール」「迷ったときの連絡先」の4項目があれば運用は回り始めます。1ページに収め、変更があったら日付を入れて上書きする形が続けやすい形式です。
命名ルールは、日付_取引先名_金額のように、先頭を日付にしておくと並べ替えたときに見つけやすくなります。フォルダは年度単位、その下に「受け取った書類」「発行した書類」の2つを置く程度のシンプルさで十分です。凝った分類は、運用する人が増えたときに崩れます。
そして、月末に30分だけ「未確認のまま残っている書類がないか」を見る時間をカレンダーに固定します。仕組み化とは、判断を減らすことと、点検の時間をあらかじめ確保することの2つです。ここまで整えておくと、決算や申告の前に慌てる場面がかなり減ります。
自社で発行する側の整理も忘れずに
インボイス制度の話は受け取る側に注目が集まりがちですが、自社が発行する請求書や領収書の側も整理が必要です。登録番号、税率ごとの区分と税額、宛名などが自社のフォーマットに入っているかを、一度だけ点検して雛形を固めてしまいましょう。
発行した書類は、控えを保存しておく必要があります。請求書発行を会計ソフトや請求サービスで行っている場合は、控えがサービス内に残るのか、自社でもダウンロードして保存するのかを決めておくと、解約や乗り換えのときに困りません。
値引きや返品が発生したときの書類の出し方など、イレギュラーな処理は自社の取引形態によって変わります。判断に迷う取引がある場合は、早い段階で税理士に相談し、自社のルールとして文書に落としておくことをおすすめします。
よくある質問
インボイス制度で増えた事務負担を減らすには、何から手をつければいいですか。
まず請求書の受取口をメールなどに集約し、次に確認の順番(登録番号→記載事項→税率区分)を紙1枚に書き出すところから始めるのが取りかかりやすい方法です。判断を毎回考えないようにするだけで、1件あたりの処理時間が短くなります。そのうえで、保存場所と命名ルールを決めると流れがつながります。
紙で届いた請求書は、スキャンしてデータで保存してもよいのでしょうか。
一定の要件を満たしてデータ化して保存する方法として、電子帳簿保存法のスキャナ保存の制度が設けられています。解像度や検索できる状態にすることなどの要件があるため、導入前に国税庁の資料で最新の内容を確認し、判断に迷う場合は税理士にご相談ください。
登録番号が書かれていない請求書を受け取ったら、どうすればよいですか。
まずは取引先に確認し、記載漏れなのか、そもそも登録を受けていないのかを切り分けます。登録を受けていない事業者との取引については経過的な取扱いが設けられている部分もあり、自社の処理方針は顧問税理士に確認したうえで社内ルールとして決めておくと運用が安定します。
経理のマニュアルは、どれくらいの分量で作ればいいですか。
1ページで十分です。受取口の一覧、確認の順番、保存場所と命名ルール、迷ったときの連絡先の4項目があれば運用は回り始めます。例外的なケースに出会うたびに追記していく形にすると、自社に合った内容へ育っていきます。