会社の住所を変更する手順|本店移転登記と届出の流れ

・会社設立・登記・会社のはじめかた編集部(監修:田中 祐介)

オフィスの引っ越し、自宅から事務所への移転、バーチャルオフィスの乗り換え。理由はさまざまでも、会社の住所(本店)を変えるときにやることの骨格は同じです。「定款をどう扱うか」を先に決め、決議して、法務局に登記し、その後で税務署などに届け出る。この順番を外さなければ、手続きは思ったより複雑ではありません。この記事では、法人の住所変更の全体像と、迷いやすい分岐の判断基準を順に整理します。

この記事の結論

  • 会社の住所(本店)を変更するときは、定款の本店所在地の記載を確認したうえで決議を行い、法務局へ本店移転の登記を申請し、その後に税務署・自治体・年金事務所などへ届け出るのが基本の流れです。
  • 本店移転の登記は、移転した日から2週間以内に申請することとされているため、引っ越し日が決まった時点で逆算してスケジュールを組むのが安全です。
  • 定款に「〇〇市」までしか書いていない場合で同じ市区町村内へ移るなら定款変更は不要になることが多く、市区町村をまたぐ場合や番地まで書いている場合は株主総会での定款変更が必要になります。

法人の住所変更は何から手をつける?まず定款を見る

最初にやることは、登記簿でも引っ越し業者への連絡でもなく、定款を開くことです。定款の「本店の所在地」の書き方によって、株主総会が必要かどうかが変わるからです。ここを確認しないまま進めると、あとから決議をやり直すことになりかねません。

定款の書き方は大きく2通りあります。「当会社は、本店を東京都〇〇区に置く」のように最小行政区画(市区町村、東京23区は区)までしか書いていないパターンと、「東京都〇〇区〇〇一丁目1番1号」のように番地まで書いているパターンです。前者で同じ市区町村内へ移るなら定款の記載はそのままで足りることが多く、取締役会(取締役会がない会社は取締役の決定)で新しい住所を決めれば進められます。

一方、市区町村をまたいで移転する場合や、定款に番地まで書いている場合は、定款変更のための株主総会の特別決議が必要になります。ひとり会社でも決議は省略できませんが、株主が自分だけであれば書面で議事録を残す形で対応するのが一般的です。まずは「定款変更が要るか要らないか」を確定させてください。

本店移転登記の流れ|いつ・何を用意して・どこに出すか

登記のタイミングは、実際に本店を移転した日が基準です。移転の日から2週間以内に登記を申請することとされているため、引っ越し日が決まったらそこから逆算し、決議日・書類作成日・申請日を先に押さえておくと慌てずに済みます。契約上の入居日と実際に本店機能を移す日がずれる場合は、どの日を移転日とするかを社内で決めて、議事録の記載と揃えておきましょう。

申請先は、本店の所在地を管轄する法務局です。同じ法務局の管轄内での移転か、別の管轄へ移るかで申請の形が変わります。管轄が変わる移転では、旧所在地を管轄する法務局を経由して新所在地分もまとめて扱う運用になっており、登記事項も増えるため、書類の作り方が少し複雑になります。自信がなければこの時点で司法書士に相談するのが現実的です。

用意する書類は、一般的には本店移転登記申請書、株主総会議事録(定款変更が必要な場合)、取締役会議事録または取締役の決定書、株主リスト、必要に応じて委任状といったところです。申請には登録免許税がかかり、管轄をまたぐかどうかでも金額の考え方が変わります。金額や必要書類の最新の様式は、法務局の公式サイトや管轄法務局の窓口で確認してください。

登記が終わったあとの届出|税務署・自治体・年金事務所

登記が完了しても、それだけでは手続きは終わりません。登記は「会社の住所が変わったことを公示する」ものなので、税務や社会保険の世界では別途届け出が必要です。順番としては、登記完了後に取得した登記事項証明書(履歴事項全部証明書)を手元に用意してから進めると、添付が求められた場合にも対応しやすくなります。

税務関係では、税務署へ異動届出書を提出します。あわせて、都道府県税事務所と市区町村(法人住民税・法人事業税の関係)にも同様の届出が必要になるのが一般的です。移転前と移転後で自治体が変わる場合は、旧・新の両方に出すよう案内している自治体もあるため、それぞれの公式サイトで提出先と様式を確認してください。

社会保険・労働保険では、年金事務所への事業所所在地変更(訂正)届、労働基準監督署への労働保険名称・所在地等変更届、ハローワークへの雇用保険事業主事業所各種変更届が代表的です。これらは提出期限が短めに設定されているものがあり、たとえば年金事務所は変更後すみやかに、労働保険関係は変更のあった日から比較的短い期間内とされています。従業員がいる会社は、登記と同じタイミングでこちらのスケジュールも組んでおくと安心です。

見落としやすい連絡先|銀行・許認可・契約書類

公的な届出以外にも、住所変更を伝える先はかなりあります。とくに法人口座を持つ金融機関は、変更手続きが済んでいないと通知が旧住所に届き続けたり、手続きの際に確認を求められたりします。多くの場合、登記事項証明書や印鑑証明書の提出を求められるので、登記完了後に必要部数をまとめて取得しておくと二度手間になりません。

許認可を受けて事業をしている場合は、所管する役所への変更届が別に必要になることがあります。建設業、古物商、旅行業、人材紹介など、業種ごとに届出先も期限も異なります。「登記したから自動的に反映される」ということはないため、自社が受けている許認可を一覧にして、それぞれの窓口を確認してください。

そのほか、請求書や契約書のひな形、ウェブサイトの会社概要、特定商取引法に基づく表記、名刺、法人カードや各種SaaSの登録情報、郵便物の転送手続きなども対象になります。インボイス制度に関連して登録事業者の情報を公表している場合、公表事項の変更が必要になることもあるため、国税庁の案内で扱いを確認しておくとよいでしょう。

バーチャルオフィス・自宅から移転するときの注意点

自宅を本店にしていた会社が事務所へ移る、あるいはバーチャルオフィスを乗り換える、というケースも増えています。手続きの流れ自体は通常の移転と同じですが、新しい住所をそのまま本店として登記できるかどうかを先に確認しておくことが大切です。賃貸借契約やサービスの利用規約で、法人登記への利用可否や条件が定められていることがあります。

バーチャルオフィスを利用する場合、金融機関の口座開設や一部の許認可で、実体のある事務所であることを確認されることがあります。すでに口座を持っている会社でも、住所変更の届出の際に利用実態を尋ねられることがあるため、事業の実態を説明できる資料を整えておくと進めやすくなります。どのサービスが自社に向くかは、登記利用の可否、郵便物の取り扱い、来客対応の要否といった条件で比べ、料金や契約条件は各社の公式サイトで最新の内容を確認してください。

自宅から事務所へ移るときは、家賃や通信費の按分の考え方が変わることがあります。経費処理の扱いは会社の状況によって異なり、判断が分かれる場面もあるため、決算を任せている税理士に早めに共有しておくことをおすすめします。

自分でやるか、司法書士に頼むか

判断の目安はシンプルです。まず「管轄法務局が変わるか」を見て、変わらない場合で定款変更も不要なら、法務局の記載例を参照しながら自分で申請することも十分に考えられます。書類の点数が少なく、記載内容も比較的わかりやすいためです。

次に、管轄をまたぐ移転、定款変更が必要な移転、あるいは役員変更など他の登記と同時に行う場合は、専門家に依頼したほうが結果的に早く済むことが多くなります。オンライン申請を使いたい場合や、移転日から2週間という期限が迫っている場合も同様です。登記の代理は司法書士の業務で、報酬は事務所ごとに異なるため、複数の事務所に見積もりを取って比較するとよいでしょう。

なお、登記が終わったあとの税務の届出は税理士、社会保険・労働保険の届出は社会保険労務士が扱う領域です。すでに顧問がいる場合は、移転日が決まった段階で「いつ・どこへ移る」を共有しておくと、届出漏れを防ぎやすくなります。制度の細かい要件や様式は改定されることがあるので、法務局・国税庁・日本年金機構など所管官庁の最新資料を必ず確認し、判断に迷う点は司法書士や税理士、社会保険労務士にご相談ください。

よくある質問

本店移転の登記はいつまでに申請すればよいですか?

会社法では、本店を移転した日から2週間以内に登記を申請することとされています。期限を過ぎると過料の対象となる場合があるため、引っ越し日が決まった時点で決議や書類準備のスケジュールを逆算しておくと安心です。管轄をまたぐ移転は書類が増えるので、余裕を持って準備してください。

同じ市内での引っ越しでも登記は必要ですか?

はい、住所が変われば本店移転の登記が必要です。ただし定款に「〇〇市に置く」と最小行政区画までしか記載がなく、同じ市区町村内での移転であれば、定款変更のための株主総会は不要となることが多く、取締役会または取締役の決定で進められます。まず定款の記載を確認してください。

登記をすれば税務署への届出は不要になりますか?

登記と税務の届出は別の手続きで、登記だけでは税務署に情報は反映されません。税務署への異動届出書に加え、都道府県税事務所や市区町村への届出も一般的に必要です。提出先や様式は自治体によって案内が異なるため、各公式サイトで確認するか、顧問税理士にご確認ください。

従業員がいる場合、追加で必要な手続きはありますか?

年金事務所への事業所所在地変更(訂正)届、労働基準監督署への労働保険の所在地等変更届、ハローワークへの雇用保険事業所の変更届などが一般的に必要になります。これらは提出期限が比較的短く設定されているものがあるため、登記と並行して準備し、詳細は所管窓口や社会保険労務士に確認するとよいでしょう。

あわせて読みたい

「会社設立・登記」の記事をすべて見る →

次に決めること

記事をすべて見る(1087本)→

この記事は一般的な情報をまとめたものです。税務・法務・労務の個別の判断については、税理士・弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。 料金や条件は変わることがあるため、お申し込み前に必ず各サービスの公式サイトで最新の内容をご確認ください。