定款の本店所在地の書き方|最小行政区画までにするかの判断
会社をつくるときに意外と手が止まるのが、定款の「本店所在地」をどこまで書くか、という一行です。番地まで書くのか、市区町村までにしておくのか。どちらでも定款としては成り立ちますが、後々の引っ越しのしやすさが変わってきます。この記事では、最小行政区画までにするかどうかの判断基準と、政令指定都市・郡部・東京23区それぞれの書き方、そして移転時に何が起きるかを、順番に整理します。
この記事の結論
- 定款の本店所在地は「最小行政区画(市区町村)まで」でも「番地まで」でも記載でき、どちらで書くかによって、後で移転したときに定款変更が必要になる範囲が変わります。
- 将来同じ市区町村内での移転が想定されるなら最小行政区画までにとどめる書き方が扱いやすく、移転の予定がなく記載を明確にしたい場合は番地まで書く選び方もあります。
- 最小行政区画は、東京23区は「区」、政令指定都市は「市」、郡部の町村は「郡+町村」までが一般的な単位とされ、登記申請の際には別途、番地まで含めた本店の所在場所を決める必要があります。
定款の本店所在地はどこまで書く? まず2つの書き方を知る
定款に書く本店所在地には、大きく2つの書き方があります。ひとつは「当会社は、本店を東京都渋谷区に置く」のように、最小行政区画(市区町村レベル)までにとどめる書き方。もうひとつは「当会社は、本店を東京都渋谷区◯◯一丁目2番3号に置く」のように、番地まで書き切る書き方です。
会社法では、本店の所在地は定款に記載する事項とされていますが、実務上は最小行政区画までの記載で足りると扱われるのが一般的です。つまり、番地まで書かなくても定款として成立します。逆に、番地まで書いても差し支えはありません。どちらを選ぶかは、法律で決まっているというより、運用のしやすさの問題です。
迷ったときの判断は単純です。「この住所から動く可能性があるか」をまず考えてください。自宅やレンタルオフィスで始めて、事業が伸びたら移るつもりがあるなら、最小行政区画までにしておくほうが後の手間が減ります。
最小行政区画までにするか、番地まで書くかの判断基準
最小行政区画までにする最大の利点は、同じ市区町村の中で引っ越しても定款を変えずに済むことです。本店を移すこと自体は決定と登記が必要ですが、定款そのものに手を入れる必要がないため、株主総会での定款変更決議を省ける場面が出てきます。ひとり社長やこれから人が増える会社では、この身軽さが効いてきます。
一方、番地まで書く選び方が向くのは、自社物件や長期契約の事務所で、当面動く予定がないケースです。定款を見ただけで本店の場所が特定できるため、対外的な説明がしやすい、という理由で選ぶ会社もあります。ただし、同じ区内で少し移るだけでも定款変更の手続きが発生する点は、あらかじめ織り込んでおく必要があります。
判断の順番はこうです。(1)3年以内に移転する可能性があるか→あるなら最小行政区画まで。(2)ないとしても、バーチャルオフィスや賃貸で契約更新の不確実性があるか→あるなら最小行政区画まで。(3)どちらも当てはまらず、記載を具体的にしたい事情があるなら番地まで。実務では(1)(2)に当てはまる会社が多く、最小行政区画までの記載が選ばれやすい傾向があります。
政令指定都市・郡・東京23区の書き方
最小行政区画の単位は、地域によって少し違います。東京23区の場合は「東京都新宿区」のように、区までが最小行政区画として扱われるのが一般的です。「東京都」だけでは特定が足りないと考えてください。
政令指定都市の場合は、「横浜市」「大阪市」「名古屋市」のように市までで足り、行政区(横浜市西区など)まで書かなくてもよいとされるのが一般的な扱いです。市までにしておけば、市内の別の区へ移転しても定款変更を要しない形になります。区まで書いても構いませんが、その分だけ動ける範囲は狭くなります。
郡部の町村に置く場合は、「◯◯郡◯◯町」のように郡と町村をセットで書くのが通例です。郡そのものは行政区画ではないため、郡名だけの記載は避け、町村名まで入れておくと安全です。なお、市町村合併で地名が変わることもあります。現在の正式な表記は、その自治体の公式サイトで確認しておくと確実性が高まります。
定款の条文例と、登記に向けた本店の決め方
条文の形はシンプルです。最小行政区画までなら「第◯条(本店の所在地) 当会社は、本店を東京都渋谷区に置く。」、番地まで書くなら「当会社は、本店を東京都渋谷区◯◯一丁目2番3号に置く。」となります。支店を置く予定があれば「当会社は、必要に応じて、取締役会の決議により、支店を置くことができる。」といった一文を添える形もあります。
ここで押さえておきたいのが、定款に最小行政区画までしか書かない場合でも、設立登記の申請には番地まで含めた具体的な所在場所が必要になる、という点です。株式会社であれば発起人の決定書(発起人決定書・発起人会議事録など)で本店の所在場所を定め、その内容を登記申請書に反映させる流れが一般的です。合同会社でも同様に、社員の決定という形で具体的な場所を定めます。
手順としては、(1)本店に使う住所を確定させる(賃貸やバーチャルオフィスなら、法人登記に利用できる契約かを事前に確認)、(2)定款に最小行政区画までか番地までかを決めて記載、(3)株式会社なら公証役場で定款認証、(4)発起人決定書などで番地まで含む本店所在場所を決定、(5)法務局へ設立登記を申請、という順です。
定款認証のときに気をつけること
株式会社・一般社団法人などは、設立前に公証役場で定款認証を受けます。このとき、本店所在地の記載が実在する地名と食い違っていたり、政令指定都市の表記が正確でなかったりすると、修正を求められることがあります。住居表示と登記上の地番が異なる地域もあるため、記載に迷ったら、認証を依頼する公証役場に事前に問い合わせておくと手戻りを減らせます。
定款認証は、本店を置く都道府県内の公証役場で受けるのが原則とされています。つまり、本店所在地をどこにするかは、どの公証役場に行くかにも関わってきます。電子定款やテレビ電話による認証の取り扱いは変わることがあるため、最新の運用は日本公証人連合会や各公証役場の案内で確認してください。
なお、認証後に本店所在地の記載を直したくなると、原則としてやり直しの手間と費用が発生します。定款を確定させる前に、住所の正式表記と、最小行政区画までにするかどうかを決め切っておくのが結果的に早道です。
本店を移転するとき、定款変更が必要になるのはどんな場合か
移転時の手続きは、定款の書き方と移転先によって変わります。整理すると次の通りです。まず、定款に最小行政区画までしか書いていない会社が、同じ市区町村内で移転する場合は、定款の記載と矛盾しないため定款変更は不要とされ、取締役の決定(取締役会設置会社なら取締役会決議)で本店の所在場所を定め、法務局へ本店移転登記を申請する流れが一般的です。
次に、定款の記載と異なる市区町村へ移転する場合は、定款の本店所在地の条文を変える必要があるため、株主総会の特別決議による定款変更を行ったうえで、移転の決定と登記を行います。番地まで定款に書いている会社は、同じ区内の隣のビルへ移るだけでも定款変更が絡んでくるため、この違いは小さくありません。
登記申請には期限が定められており、本店移転の日から一定期間内に申請するものとされています。管轄法務局が変わる移転かどうかで申請の仕方も変わります。移転が決まったら、契約書・請求書・銀行口座・税務署や年金事務所などへの届出も合わせて棚卸ししておくと、抜け漏れを防げます。具体的な期限や必要書類は、法務局の案内で確認してください。
迷ったら専門家に相談を
本店所在地の書き方そのものは難しくありませんが、実務では「バーチャルオフィスを本店にしてよいか」「自宅を本店にしたときの賃貸契約や税務の扱い」「移転に伴う登記と各種届出の順番」といった、周辺の論点のほうが判断に迷いやすいところです。
登記や定款の記載方法については司法書士、事務所の賃貸契約や利用規約の確認については弁護士、自宅兼事務所の経費按分など税務の扱いについては税理士に相談すると、自社の状況に合った整理ができます。設立前の段階で一度相談しておくと、認証後のやり直しを避けやすくなります。
制度や運用は変わることがあります。この記事は一般的な考え方をまとめたもので、個別の判断を保証するものではありません。最終的な手続きは、法務局・公証役場の案内や、依頼する専門家の助言に沿って進めてください。
よくある質問
定款の本店所在地は番地まで書かないといけませんか?
実務上は、最小行政区画(市区町村)までの記載で足りると扱われるのが一般的です。番地まで書いても構いませんが、その住所から少し移るだけでも定款変更が必要になります。将来の移転可能性があるなら、最小行政区画までにとどめる書き方が扱いやすいでしょう。
政令指定都市の場合、区まで書く必要はありますか?
政令指定都市では「◯◯市」までで最小行政区画を満たすと扱われるのが一般的で、行政区まで書かない選び方ができます。市までにしておけば、市内の別区へ移転しても定款変更を要しない形になります。個別の記載については公証役場や司法書士に確認すると確実です。
定款に市区町村までしか書いていない場合、登記はどうやって進めますか?
設立登記には番地まで含む具体的な本店所在場所が必要になるため、発起人の決定書などで場所を定め、その内容を登記申請に反映させる流れが一般的です。定款の記載と、決定書で定める具体的な住所が矛盾しないよう確認してください。
本店を移転したら、いつまでに登記すればよいですか?
本店移転の日から一定期間内に登記申請を行うものとされています。期限や必要書類、管轄法務局が変わる場合の取り扱いは、法務局の案内で最新の情報を確認してください。不安があれば司法書士に依頼すると手続きを整理しやすくなります。