一人社長の算定基礎届と資格取得届|社会保険の年間手続きカレンダー
一人だけの会社でも、社長に役員報酬を支払うなら健康保険・厚生年金保険の手続きが発生します。従業員がいないぶん書類の枚数は少ないのですが、「いつ出すか」を知らないまま過ぎてしまうと、後からまとめて対応することになりがちです。この記事では、会社をつくった直後に出す資格取得届から、毎年7月の算定基礎届、報酬を変えたときの月額変更届まで、一人社長が1年間に向き合う社会保険の届出を時系列で整理します。
この記事の結論
- 一人社長の会社でも、役員報酬を支払う場合は健康保険・厚生年金保険の適用事業所となり、設立後おおむね5日以内に新規適用届と被保険者資格取得届を年金事務所へ提出するのが原則です。
- 算定基礎届は毎年4〜6月に支払った報酬をもとに標準報酬月額を見直す届出で、原則として7月1日から7月10日までに提出し、決定された標準報酬月額はその年の9月分の保険料から適用されます。
- 役員報酬を年度の途中で大きく変えたときは算定基礎届を待たずに月額変更届(随時改定)の検討が必要で、賞与を支払ったときは賞与支払届を支払日から原則5日以内に提出します。
一人社長でも社会保険の届出は必要?まず判断する順番
法人は、社長ひとりであっても、報酬を支払う役員がいれば健康保険・厚生年金保険の適用事業所として扱われるのが原則です。個人事業のときの国民健康保険・国民年金とは仕組みが変わるため、会社をつくったらまず「役員報酬をいくらにするか」を決め、その金額が確定してから届出に進む、という順番で考えると迷いません。
判断の順番はシンプルです。①役員報酬をゼロにするのか、支払うのかを決める。②支払うなら、いつから支払うか(設立日か、翌月からか)を決める。③その報酬で健康保険・厚生年金の資格取得届を出す。この3段階です。役員報酬ゼロで運営する場合は、報酬から保険料を控除できないため被保険者とならない扱いになることがありますが、判断が分かれる場面もあるため、事前に年金事務所や社会保険労務士に確認してください。
なお、社長が他社で社会保険に加入している場合や、複数の会社から報酬を受けている場合は、二以上事業所勤務の届出という別の扱いになります。自分がどのパターンかを最初に整理しておくと、後の手続きがスムーズです。
会社をつくったら最初に出す書類|新規適用届と被保険者資格取得届
設立直後にまとめて出すのは、大きく分けて「会社としての届出」と「社長個人としての届出」の2種類です。会社としての届出が新規適用届(健康保険・厚生年金保険 新規適用届)、社長個人としての届出が健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届になります。提出先は、会社の所在地を管轄する年金事務所(事務センター)です。
時期は、事実が発生した日からおおむね5日以内が原則とされています。用意するものは、登記事項証明書など会社の実在を確認できる書類、法人番号が分かるもの、そして社長の基礎年金番号またはマイナンバーです。扶養する家族がいる場合は、被扶養者(異動)届と、続柄や収入を確認できる書類もあわせて準備します。
提出方法は、窓口持参・郵送のほか、GビズIDを取得すればe-Govなどからの電子申請も選べます。一人社長は届出の頻度が少ないので紙でも回りますが、年に数回は必ず提出があるため、早めに電子申請の環境を整えておくと、7月の算定基礎届のときに楽になります。最新の様式や添付書類は日本年金機構の案内で確認してください。
算定基礎届はいつ出す?一人社長・マイクロ法人の書き方の考え方
算定基礎届(被保険者報酬月額算定基礎届)は、毎年の標準報酬月額を見直すための届出です。4月・5月・6月に支払った報酬の平均をもとに標準報酬月額を決め直し、原則として7月1日から7月10日までに提出します。決定された標準報酬月額は、その年の9月分の保険料から翌年8月分まで使われるのが基本的な流れです。
一人社長やマイクロ法人の場合、役員報酬は毎月同額であることが多く、4〜6月の3か月とも同じ金額が並ぶだけ、というケースが少なくありません。それでも提出は必要です。6月頃に年金事務所から対象者の氏名が印字された用紙や電子申請用のデータが届くので、支払基礎日数と報酬月額を記入して返送する、という流れになります。
書くときに迷いやすいのが、通勤手当や現物支給の扱いです。報酬には、労働の対償として経常的に支払われるものが幅広く含まれると考えられており、通勤手当も原則として算入します。一方で、年に数回の賞与は算定基礎届ではなく賞与支払届の対象です。どこまで含めるか判断がつかないときは、記入前に年金事務所へ問い合わせるか、社会保険労務士に確認すると安全です。
報酬を変えたとき・賞与を出したとき|月額変更届と賞与支払届
役員報酬は、事業年度開始から一定期間内に改定するのが一般的です。このとき、報酬額が変わって固定的賃金に変動があり、変動月から3か月間の平均報酬で計算した標準報酬月額が従前と2等級以上変わる場合は、算定基礎届を待たずに月額変更届(被保険者報酬月額変更届)を提出する随時改定の対象になります。変動月から数えて4か月目の保険料から新しい等級が適用されるのが原則です。
一人社長の会社では、決算後に役員報酬を見直して7月前後に改定する、というパターンがよくあります。その場合、算定基礎届と月額変更届のどちらを出すのかが分かりにくくなります。迷ったら「4〜6月の報酬に変動があったか」「2等級以上動くか」の順に確認し、該当しそうなら年金事務所に照会するのが確実です。
役員賞与を支払ったときは、支払日から原則5日以内に被保険者賞与支払届を提出します。事前確定届出給与として税務署に届け出た役員賞与も、社会保険上は賞与として扱われるのが一般的です。税務上の取扱いと社会保険上の取扱いは別ものなので、賞与を出す予定があるなら、税理士と社会保険労務士の両方に事前に相談しておくと行き違いが防げます。
マイクロ法人と任意継続はどちらを選ぶ?切り替えの判断基準
会社員を辞めて法人をつくる人が悩みやすいのが、前職の健康保険の任意継続との関係です。任意継続は、退職前に一定期間被保険者だった人が、退職後も最長2年間、前の健康保険に継続して加入できる仕組みで、申出には退職日の翌日から20日以内といった期限が定められています。
ただし、法人を設立して役員報酬を受け取り、社会保険の適用対象となる場合は、新しい会社で健康保険・厚生年金保険の被保険者になるのが原則です。この場合、任意継続は資格を失う扱いになることがあります。つまり「任意継続とマイクロ法人の社会保険を自由に選べる」わけではなく、報酬の有無と加入義務の判断が先に来る、という順番になります。
判断の目安としては、①設立直後で役員報酬をまだ支払わない期間があるなら、その間の医療保険をどうするか(任意継続か国民健康保険か)を先に決める、②報酬を支払い始める月を決めたら、その月に資格取得届を出す、という流れです。扶養家族が多い、前職の保険料水準が特殊など個別事情で結論が変わるため、退職前後の段階で年金事務所と加入していた健康保険組合の両方に確認することをおすすめします。
一人社長の社会保険 年間スケジュールと、抜けを防ぐ仕組み
1年の流れをまとめると、通常時に必ず発生するのは「毎年7月の算定基礎届」と「毎月の保険料納付」です。保険料は、対象月の翌月末が納付期限となるのが一般的で、口座振替にしておくと払い忘れを防げます。加えて、労働者を雇っていない一人社長の会社は労働保険の年度更新が不要なことが多いのですが、従業員を採用した時点で労災・雇用保険の手続きが新たに発生します。
随時発生するものとしては、役員報酬改定にともなう月額変更届、賞与を出したときの賞与支払届、住所や氏名が変わったときの変更届、会社の所在地を移したときの適用事業所所在地変更届、そして社長が退任・廃業する場合の資格喪失届があります。いずれも「事実が起きてから数日以内」という短い期限が設定されていることが多いので、出来事が起きた日にカレンダーへ提出期限を入れてしまうのが現実的です。
抜けを防ぐ工夫は3つあります。①GビズIDを取得して電子申請に一本化する、②毎年6月と決算月の翌月に「社会保険の確認」という予定を入れておく、③給与計算を担っている税理士事務所や社会保険労務士と、誰がどの届出を出すかの役割分担を文書で決めておく。ひとりで全部抱えると、忙しい時期に限って期限が重なります。
なお、社会保険の加入区分や報酬の範囲は個別の事情で判断が変わることがあります。役員報酬の設定や任意継続との兼ね合いで迷ったときは社会保険労務士に、役員報酬・役員賞与の税務上の扱いとあわせて検討したいときは税理士に、早めに相談してください。制度の詳細や最新の様式は、日本年金機構など所管の公的機関の資料でご確認ください。
よくある質問
一人社長で役員報酬がゼロの場合も、算定基礎届は必要ですか?
役員報酬を支払っておらず、健康保険・厚生年金保険の被保険者がいない状態であれば、算定基礎届の対象者もいないことになります。ただし、報酬ゼロでも被保険者として扱われるかどうかは事情により判断が分かれることがあるため、自己判断せず年金事務所や社会保険労務士に確認してください。
算定基礎届を出し忘れたらどうなりますか?
提出期限を過ぎても受け付けてもらえるのが一般的ですが、標準報酬月額の決定が遅れ、保険料の精算が後からまとめて発生することがあります。気づいた時点ですぐに管轄の年金事務所へ連絡し、指示に従って提出するのが最も早い解決になります。
被保険者資格取得届は、会社の設立日と報酬の支払開始日のどちらで出しますか?
資格取得日は、原則として被保険者となる事実が発生した日、つまり役員報酬の支払対象となる勤務が始まった日で考えます。設立日と報酬開始月がずれる場合は判断が分かれることがあるので、届出前に年金事務所へ確認しておくと後の訂正を避けられます。
マイクロ法人をつくったら、任意継続はいつ終わりますか?
新しい会社で健康保険の被保険者資格を取得すると、任意継続の資格は失われる扱いになるのが原則です。喪失の手続きや必要書類は加入していた健康保険(協会けんぽまたは健康保険組合)によって案内が異なるため、資格取得届を出す前に加入先へ連絡して流れを確認してください。