合同会社から株式会社への組織変更|手続きの流れと費用の目安
「とりあえず合同会社で始めたけれど、株式会社にしたほうがいいのでは」。設立から1〜3年ほど経った会社から、よく出てくる悩みです。結論から言うと、合同会社は後から株式会社に変えられます。ただし手続きは「設立のやり直し」ではなく、組織変更という別の手続きで、官報公告や登記を含む2〜3か月がかりの流れになります。この記事では、変えるべきかの判断基準、実際の手続きの順番、費用の考え方を、これから動く人の目線で整理します。
この記事の結論
- 合同会社は解散せずに株式会社へ「組織変更」でき、法人格や許認可・契約関係は原則そのまま引き継がれます。
- 手続きは、組織変更計画の作成→総社員の同意→債権者保護手続(官報公告と個別催告、1か月以上)→効力発生日→登記、という順に進み、全体で2〜3か月程度を見込むのが一般的です。
- 費用は登記の登録免許税(株式会社の設立登記分と合同会社の解散登記分)、官報公告費、専門家報酬が中心で、金額は資本金額や依頼先により変わるため、法務局・官報販売所・司法書士に事前確認してください。
そもそも合同会社から株式会社に変えられるのか
変えられます。会社法では、合同会社が株式会社になることを「組織変更」と呼びます。いったん合同会社を解散して株式会社を新しくつくる、という手続きではありません。法人格は同じまま、会社の種類だけが変わるイメージです。
そのため、法人番号や許認可、取引先との契約、銀行口座、従業員との雇用関係は、原則としてそのまま引き継がれます。ただし許認可の種類によっては変更届が必要になったり、契約書に商号変更の通知義務が定められていたりします。関係先ごとに確認しておくと安全です。
逆に言えば、「合同会社を畳んで株式会社を作り直す」よりも手間と費用を抑えられる可能性が高い方法です。設立から時間が経ち、取引や許認可が積み上がっている会社ほど、組織変更を選ぶ意味が大きくなります。
設立にかかる法定費用
どちらの形態でもかかる、国が定めた費用です。設立代行サービスの手数料は、これとは別にかかります。
| 項目 | 株式会社 | 合同会社 |
|---|---|---|
| 登録免許税(設立登記) | 資本金の額の1,000分の7。15万円に満たないときは1件につき15万円 | 資本金の額の1,000分の7。6万円に満たないときは1件につき6万円 |
| 定款の認証手数料 | 資本金100万円未満 3万円/100万円以上300万円未満 4万円/300万円以上 5万円 | 日本公証人連合会の手数料の案内に掲載なし |
| 定款の謄本(同一の情報の提供) | 1枚につき250円 | 日本公証人連合会の手数料の案内に掲載なし |
| 収入印紙(紙の定款の場合) | 4万円 | 日本公証人連合会の手数料の案内に掲載なし |
株式会社に変えるべきか、判断する順番
迷ったら、次の順に見てください。第一に「今、合同会社であることで具体的に困っているか」。取引先の与信審査で引っかかった、求人の応募が集まらない、補助金や入札の要件に合わない、といった実害があるなら検討する価値があります。困りごとが特にないなら、急いで変える理由は薄いです。
第二に「外部からの出資を受ける予定があるか」。合同会社は出資者が全員社員(経営に関わる立場)になるのが基本の設計で、株式のように持分を細かく分けて譲渡する仕組みとは前提が異なります。ベンチャーキャピタルや第三者からの出資、将来のM&Aによる売却を視野に入れるなら、株式会社のほうが話が進めやすい場面が多くなります。
第三に「上場を考えているか」。証券取引所に上場するのは株式を発行する株式会社で、合同会社のままで上場するという想定はありません。上場を本気で目指すなら、早い段階で株式会社にしておくほうが、資本政策や機関設計の積み上げがしやすくなります。一方、家族経営や一人社長で、当面は自己資金と借入で回す予定なら、合同会社のままという選択も十分に成り立ちます。
合同会社のままでも困らないケース、変えたほうがよいケース
合同会社のままで問題になりにくいのは、取引先が個人や小規模事業者中心の会社、受託制作やコンサルティングのように会社形態より実績で選ばれる業種、そして当面ひとりまたは家族だけで運営する会社です。中小企業向けの制度や補助金の多くは「中小企業者」という基準で見ており、株式会社か合同会社かで一律に区別しない運用が一般的です。決算公告の義務がない点も、事務負担の面では合同会社の利点とされています。
変えたほうがよいと判断しやすいのは、大企業や官公庁との取引を増やしたいとき、従業員を採用して組織を大きくしていくとき、外部出資や事業承継・売却を視野に入れたときです。特に採用面では、求職者に会社形態が伝わりにくいという声が実務でよく聞かれます。
なお「株式会社のほうが税金が安い」ということはありません。法人税の扱いは会社の種類ではなく、資本金額や所得金額などで決まる部分が大きいです。税負担がどう変わるかは、個別の事情によって異なりますので、税理士にご確認ください。
組織変更の手続きは、いつ・何を・どこに出すか
流れは大きく5段階です。①組織変更計画の作成、②総社員の同意、③債権者保護手続、④効力発生日の到来、⑤登記申請。効力発生日から逆算してスケジュールを組むのがコツで、全体で2〜3か月程度を見ておくと無理がありません。
①組織変更計画では、株式会社になった後の商号、目的、本店所在地、発行可能株式総数、機関設計(取締役だけにするか、取締役会や監査役を置くか)、各社員に割り当てる株式の数、効力発生日などを決めます。②これを総社員の同意で承認します。合同会社では原則として社員全員の同意が必要で、一人社長なら自分の同意書を作ることになります。同時に、株式会社になった後の定款も作成します。組織変更の場合、公証人の定款認証は不要とされています。
③債権者保護手続は、官報に組織変更する旨を公告し、把握している債権者には個別に催告します。この期間は1か月以上必要で、ここが日程のボトルネックになります。官報掲載は申し込みから掲載まで日数がかかるため、早めに官報販売所へ問い合わせてください。④効力発生日を迎えたら会社は株式会社になり、⑤効力発生日から2週間以内に、本店所在地を管轄する法務局へ「株式会社の設立登記」と「合同会社の解散登記」を同時に申請します。申請書には、組織変更計画書、総社員の同意書、定款、官報の公告を掲載した紙面、催告したことを証する書面、代表取締役の就任承諾書、資本金額を証する書面などを添えるのが一般的です。必要書類は事案によって変わるため、管轄法務局か司法書士に確認しましょう。
費用はどう考えればいいか
かかるお金は主に4つです。(1)登録免許税、(2)官報公告の掲載料、(3)司法書士などの専門家報酬、(4)登記後の各種変更にともなう実費(印鑑作成、会社印鑑カードの再取得、銀行やカードの名義変更にかかる手間など)。
(1)の登録免許税は、株式会社の設立登記分と合同会社の解散登記分の両方が発生し、設立登記分は資本金の額に応じて計算される仕組みです。税率や最低額は法令で定められているため、法務局の案内や国税庁・法務省の公表資料で最新の内容を確認してください。(2)の官報掲載料は文字数や枠の大きさで変わります。金額は官報販売所の公式案内で確認できます。
(3)の専門家報酬は依頼先や業務範囲によって差があります。組織変更は書類が多く、期間管理も必要なので、司法書士に依頼するケースが多い手続きです。見積もりを取るときは「官報の手配まで含むか」「登記後の各種届出(税務署・都道府県・市町村・年金事務所など)まで含むか」を確認すると、後から追加費用が出にくくなります。
登記が終わった後にやること
登記が完了したら、まず登記事項証明書と新しい印鑑証明書を必要部数取得します。そのうえで、税務署・都道府県税事務所・市区町村へ異動届出書を提出し、年金事務所やハローワーク、労働基準監督署にも名称変更の届出を行います。提出先ごとに様式と期限が異なるので、一覧にしてつぶしていくのが確実です。
次に、銀行口座、クレジットカード、リース契約、賃貸借契約、各種サブスクリプション、請求書や見積書のテンプレート、ウェブサイトや名刺の表記を順に変えていきます。取引先への商号変更の案内も、請求のタイミングに合わせて早めに出しておくと、入金の行き違いを防げます。
許認可を持っている場合は、所管官庁への届出が別途必要になることがあります。建設業、宅建業、古物商、人材派遣など、業種によって扱いが異なるため、許認可ごとに窓口へ確認してください。
ここまでの流れは一般的な考え方の整理です。機関設計の決め方、債権者保護手続の進め方、効力発生日の設定は、会社の状況によって最適解が変わります。登記手続そのものは司法書士、税務上の影響は税理士、従業員の社会保険や雇用関係の届出は社会保険労務士が専門です。スケジュールを引く前に、一度専門家に相談して、自社の条件に合った段取りを確認することをおすすめします。
よくある質問
合同会社のまま上場することはできますか。
証券取引所への上場は株式を発行する株式会社を前提とした仕組みで、合同会社のまま上場するという想定はありません。上場を目指すのであれば、早い段階で株式会社への組織変更を検討し、資本政策や機関設計について専門家に相談しておくとよいでしょう。
組織変更にはどのくらいの期間がかかりますか。
債権者保護手続に1か月以上かかるため、計画作成から登記完了まで2〜3か月程度を見込むのが一般的です。官報の掲載申込から実際の掲載までにも日数がかかるので、効力発生日から逆算してスケジュールを組んでください。
合同会社は中小企業向けの補助金や制度を使えますか。
多くの制度は「中小企業者」に当たるかどうかを資本金額や従業員数などで判断しており、会社の種類だけで一律に区別しない運用が一般的です。ただし制度ごとに要件が定められているため、応募前に各制度の公式な募集要領で対象要件をご確認ください。
株式会社に変えると税金は安くなりますか。
会社の種類が変わることで税負担が自動的に軽くなる、という関係にはありません。法人税や地方税の扱いは資本金額や所得の状況などで変わり、個別の事情によって結果が異なりますので、税理士にご確認ください。