代表者の住所を登記簿で非公開にする制度|要件と申出の手順
会社をつくるとき、多くの人が最後まで迷うのが「自宅の住所が登記簿に載ってしまうこと」です。登記事項証明書は誰でも取得できるため、代表取締役の住所も原則として公開されます。ただし現在は、一定の条件のもとで代表者の住所の一部を登記事項証明書に表示しない「代表取締役等住所非表示措置」という制度があります。この記事では、どんな会社が使えるのか、いつ・何を・どこに出すのか、そして非表示にすることで生じる不便まで、申出の判断ができるように順を追って整理します。
この記事の結論
- 株式会社であれば、登記の申請と同時に法務局へ申し出ることで、登記事項証明書に表示される代表取締役等の住所を市区町村までに留める「代表取締役等住所非表示措置」を利用できる場合があります。
- この措置は登記申請と同時の申出が前提で、すでに完了した登記についてあとから単独で申し出ることは想定されていないため、設立時や本店移転・役員変更のタイミングを逃さないことが重要です。
- 住所を非表示にすると、金融機関の手続きや不動産登記など、代表者の住所を登記で確認する場面で追加の資料を求められることがあるため、メリットと不便の両方を踏まえて判断します。
そもそも法人登記で代表者の住所はどこまで公開されるのか
会社の登記事項証明書には、商号、本店、目的、役員に関する事項などが記載されます。株式会社の場合、代表取締役(指名委員会等設置会社では代表執行役、持分会社では代表社員など)については、氏名だけでなく住所も登記事項とされています。登記事項証明書は利害関係の有無を問わず誰でも取得できるため、自宅を代表者の住所として登記すると、その住所が第三者に知られる可能性があります。
一方で、取締役や監査役など代表権のない役員については、登記されるのは氏名のみです。「役員全員の住所が公開される」と誤解されることがありますが、住所まで登記されるのは代表権のある立場の人です。まずは自分が登記簿上どの立場になるのかを確認すると、心配すべき範囲がはっきりします。
なお、本店所在地は代表者の住所とは別の登記事項です。自宅を本店として登記すれば、代表者住所を非表示にしても本店として自宅の住所は登記事項証明書に出ます。住所を人に知られたくない理由がプライバシーなのか、営業電話や来訪を避けたいのかで、打つべき手が変わります。
代表取締役等住所非表示措置とは?使える会社の条件
代表取締役等住所非表示措置は、一定の要件を満たす株式会社について、登記事項証明書に記載される代表取締役等の住所を、市区町村(政令指定都市では区)までの表示に留める取扱いです。登記の内容そのものが消えるわけではなく、証明書などに表示される範囲が限定される、という理解が出発点になります。
使えるのは株式会社です。合同会社などの持分会社は、代表社員の住所が登記事項であっても、この措置の対象とは異なる扱いになります。合同会社での設立を検討していて住所の公開が気になる場合は、会社形態の選択そのものを再検討する余地があります。
また、上場している会社とそれ以外とで、申出の際に求められる資料の考え方が異なります。上場会社については株式の取引所での取扱いを示す書面、それ以外の会社については本店の実在性や代表者の住所の実在性を確認できる書面が求められる、という整理です。要件の細部は改正や運用で変わり得るため、申出の前に法務省・法務局の最新の案内を確認してください。
いつ・何を用意して・どこに出すか(申出の手順)
手順の中心は「登記申請と同時に申し出る」ことです。設立の登記、本店移転の登記、代表取締役の就任や住所変更の登記など、代表取締役等の住所が登記される申請にあわせて、非表示措置の申出書を添えて提出します。逆に言えば、登記が完了したあとに思い立って単独で申し出る形は想定されていないため、タイミングを逃すと次の登記機会まで待つことになります。
用意するものは、(1)登記申請書一式、(2)代表取締役等住所非表示措置の申出書、(3)要件を確認するための書面です。(3)は、上場会社であればその事実を示す書面、それ以外の会社では本店が実在することを確認できる書面(賃貸借契約書の写しなど)と、代表者の住所の実在を確認できる書面(住民票の写しなど)が典型です。どの書面が使えるかは事案により判断されるため、事前に管轄の法務局へ確認すると手戻りが減ります。
提出先は、本店所在地を管轄する法務局(登記所)です。窓口・郵送のほか、オンライン申請に対応している場合もあります。設立と同時に申し出るなら、定款認証や出資の払込みを終えて設立登記を出すタイミングが、そのまま申出のタイミングになります。段取りとしては、本店をどこにするか決める→賃貸借契約や住民票など実在を示す資料をそろえる→登記書類と申出書をセットで作る、という順で進めるとスムーズです。
非表示にすると不便になる場面と、申し出るかどうかの判断基準
住所を非表示にした場合、代表者の住所を登記事項証明書で確認できなくなるため、取引先や金融機関が本人確認・実在確認の資料を別途求めてくることがあります。特に、会社名義での借入、不動産の売買や担保設定に伴う登記、リース契約などでは、登記簿で住所が確認できないことを理由に追加の書類を依頼されるケースが考えられます。
判断の順番としては、まず「自宅と本店が同じかどうか」を見ます。自宅と別の場所に本店を置けるなら、非表示措置を使わなくても自宅住所が登記事項証明書に出るのは代表者住所欄だけになり、そこを非表示にする効果は大きくなります。次に「近い将来に融資や不動産登記の予定があるか」を見ます。予定が具体的にあるなら、必要書類が増える前提で進めるか、時期をずらすかを検討します。
最後に「なぜ隠したいのか」を確認します。不特定多数からの接触を避けたいのが主目的なら、本店を自宅以外にする、郵便物の受取方法を分けるといった対応が先に効くこともあります。非表示措置は万能の匿名化ではなく、登記事項証明書での表示範囲を絞る仕組みだと捉えておくと、期待とのずれが起きにくくなります。
非表示措置を使わない場合の代替策
自宅を本店にしたくない場合の選択肢は、賃貸オフィス、シェアオフィス、レンタルオフィス、バーチャルオフィスなどです。契約内容によっては登記に使えない場合があるため、契約前に「法人登記に利用できるか」を必ず書面で確認します。料金や契約条件は各社で異なりますので、公式サイトで最新の内容を確認してください。
また、本店を自宅以外にする場合でも、賃貸物件の用途や管理規約によっては事務所利用が認められないことがあります。自宅が賃貸や分譲マンションなら、契約書と管理規約を先に読み、必要に応じて貸主・管理組合に確認しておくと、あとから移転登記をやり直す手間を避けられます。
なお、非表示措置は一度認められれば永続するというものではなく、要件を満たさなくなった場合や、申し出て取りやめた場合には表示される扱いに戻ることがあります。措置を使っている間も、本店の契約が続いているかなど、前提が崩れていないかを定期的に見ておくと安心です。
迷ったら専門家に相談を
代表者住所の非表示は、登記手続きの技術的な話だけでなく、金融機関との関係や今後の資金調達、事業所の契約内容とも絡みます。登記書類の作り方や申出書の記載、どの書面が実在確認の資料として使えるかといった点は、登記実務に詳しい司法書士に相談すると判断が早くなります。
設立と同時に申し出たい場合は、定款の作成・認証から登記申請までのスケジュールに申出書の準備を組み込む必要があります。会社設立を司法書士に依頼するなら、初回の打ち合わせで「代表者住所の非表示措置も併せて検討したい」と伝えておくと、必要書類の案内をまとめて受けられます。
あわせて、本店をどこに置くかは、法人住民税の均等割や事業所の届出先にも関わる場合があります。税務上の取扱いについては税理士、賃貸借契約や用途に関する法的な論点については弁護士など、内容に応じた専門家にご確認ください。制度の要件は改正や運用の変更があり得るため、手続き前に法務局の最新の案内も必ず確認してください。
よくある質問
すでに設立した会社でも、あとから代表者住所を非表示にできますか。
この措置は登記申請と同時に申し出る形が前提とされています。そのため、本店移転や代表取締役の就任・住所変更など、次に代表取締役等の住所が登記される機会にあわせて申し出るのが基本的な流れです。具体的な可否やタイミングは、管轄の法務局や司法書士にご確認ください。
住所を非表示にすると、住所は完全に分からなくなりますか。
完全な匿名化ではありません。登記事項証明書での表示が市区町村までに留まるという取扱いで、登記そのものに住所が記録されていること自体は変わりません。取引先や金融機関から、別途本人確認書類の提出を求められることもあります。
合同会社でも代表社員の住所を非表示にできますか。
この措置は株式会社を対象とした制度として整理されています。合同会社で代表社員の住所公開が気になる場合は、本店を自宅以外に置くなどの方法と、会社形態そのものの選択を含めて検討することになります。判断に迷う場合は司法書士にご相談ください。
取締役や監査役の住所も登記簿に載りますか。
代表権のない取締役や監査役については、登記されるのは氏名で、住所は登記事項とされていません。住所まで登記されるのは代表取締役など代表権のある立場の人です。就任予定のポジションによって扱いが変わるため、役員構成を決める段階で確認しておくと安心です。