従業員を雇うときの労働保険手続き|労災・雇用保険とハローワーク届出
会社をつくった時点では、労働保険の手続きは発生しません。動き出すのは「はじめて人を雇った日」からです。しかも提出先が労働基準監督署とハローワークの二か所に分かれていて、順番も決まっています。この記事では、いつ・何を用意して・どこに出すのかを、実際に手を動かす順番でまとめました。
この記事の結論
- 労働保険の手続きは、会社設立時ではなく、はじめて従業員を雇い入れた日を起点に始まります。
- まず労働基準監督署に保険関係成立届を提出し、そのうえでハローワークに雇用保険の届出を行う、という順番が基本です。
- 社長ひとりだけの会社では労災保険・雇用保険の加入対象者がいないため、通常は人を雇うまで手続きは発生しません。
会社設立 労働保険の手続きは、いつから必要になりますか
労働保険は「労災保険」と「雇用保険」をまとめた呼び方です。どちらも、従業員を雇って働いてもらうことに紐づく制度なので、法人登記が完了しただけでは手続きは発生しません。起点になるのは、はじめて従業員を雇い入れた日です。
一方で、社会保険(健康保険・厚生年金保険)は法人であれば役員ひとりでも加入対象となる扱いが一般的で、こちらは設立後すぐに年金事務所への手続きが必要になります。労働保険と社会保険は、担当する役所も期限も別物だと考えて整理しておくと混乱しません。
判断の順番としては、まず「役員以外に給与を払って働いてもらう人がいるか」を確認します。いるなら労働保険の手続きへ、いないなら社会保険の手続きだけを先に進める、という分け方が実務上わかりやすいです。
労災保険と雇用保険は何が違い、誰が対象になりますか
労災保険は、仕事中や通勤中のけが・病気に備える制度です。雇用形態や労働時間にかかわらず、雇われて働く人は原則として対象になります。アルバイトを1人雇った場合でも、労災保険の適用事業となるのが基本的な考え方です。保険料は会社が負担します。
雇用保険は、失業時の給付や育児休業給付などにつながる制度です。こちらは「1週間の所定労働時間」と「雇用見込みの期間」で加入対象かどうかが分かれ、短時間すぎるアルバイトは対象外になることがあります。保険料は会社と本人の双方が負担し、本人負担分は給与から控除します。
つまり、短時間のアルバイトを1人だけ雇う場合、労災保険の手続きは必要でも雇用保険は対象外、というケースがあり得ます。自社の雇用条件が加入要件に当てはまるかは、ハローワークの窓口か社会保険労務士に確認しておくと安心です。
会社設立後の労基署 届出:保険関係成立届と概算保険料申告書
最初に向かうのは、事業所を管轄する労働基準監督署です。従業員を雇い入れた日の翌日から10日以内に「保険関係成立届」を提出します。これが労働保険の入口で、ここで労働保険番号が付番されます。この番号がないとハローワーク側の手続きが進まないため、順番を飛ばさないことが大切です。
次に「概算保険料申告書」を、保険関係が成立した日の翌日から50日以内に提出し、概算の保険料を納めます。労災保険の保険料率は業種ごとに定められていて金額は会社によって変わりますので、具体的な率と計算方法は厚生労働省や労働局の公表資料、または窓口で確認してください。
用意しておくと手続きがスムーズなのは、登記事項証明書(履歴事項全部証明書)、事業所の所在地が分かる書類、雇い入れた従業員の労働条件が分かる資料です。建設業など一部の業種は、現場ごとに扱いが変わることがあります。自社が該当しそうな場合は、提出前に監督署へ相談しておくと手戻りを防げます。
会社設立後のハローワーク 届出:適用事業所設置届と資格取得届
労働基準監督署の手続きが済んだら、管轄のハローワークへ移ります。提出するのは「雇用保険適用事業所設置届」と「雇用保険被保険者資格取得届」の2つです。設置届は雇用保険の対象となる従業員を雇った日の翌日から10日以内、資格取得届は資格取得日の属する月の翌月10日までが期限とされています。
設置届には、労働基準監督署で受け付けられた保険関係成立届の控えが必要になるのが一般的です。あわせて、登記事項証明書、労働者名簿、賃金台帳、出勤簿、雇用契約書など、実際に人を雇っている実態が分かる書類の提示を求められることがあります。何を持参すればよいかは管轄のハローワークによって案内が異なるため、初回は事前に電話で確認してから出向くのが確実です。
資格取得届には本人のマイナンバーと、過去に雇用保険に加入していた場合は被保険者番号が必要です。入社時に本人から確認しておくと、後から連絡を取り直す手間がなくなります。2人目以降を雇うときは、設置届は不要で、資格取得届だけを都度提出していく流れになります。
届出と同時に社内で整えておくべきものは何ですか
役所への提出物だけでなく、社内に備えておく書類があります。代表的なのが労働者名簿、賃金台帳、出勤簿(タイムカード等)で、まとめて法定三帳簿と呼ばれます。窓口で提示を求められることもあり、給与計算の土台にもなるので、1人目を雇う段階でフォーマットを決めておくと後が楽です。
雇い入れの際には、労働条件を明示した書面(労働条件通知書や雇用契約書)を本人に交付します。賃金、労働時間、契約期間、就業場所と業務内容などを書面で残しておくことは、後々のトラブル予防にもつながります。
残業や休日出勤をさせる可能性があるなら、いわゆる36協定を労働基準監督署に届け出る必要があります。また、常時使用する労働者が一定人数以上になると就業規則の作成・届出が求められます。人数が増えてから慌てないよう、採用計画とあわせて時期を見ておくとよいでしょう。
社長ひとりの会社や、家族だけで働く場合はどう考えますか
株式会社の代表取締役ひとりだけの会社では、労働者にあたる人がいないため、労災保険・雇用保険ともに加入対象者がいないのが通常の扱いです。この場合、労働保険の手続きは人を雇うまで発生しません。ただし、役員であっても働き方の実態によって判断が分かれることがあるため、迷う場合は確認をおすすめします。
同居の親族だけを雇う場合も、一般の従業員と同じように扱われないことがあります。指揮命令を受けているか、他の従業員と同じ条件で賃金が支払われているかなどが見られる点で、外部から人を雇うときとは判断の軸が変わります。
また、社長自身の業務中のけがは労災保険の対象外となるのが原則です。業種によっては特別加入という仕組みが用意されている場合がありますので、現場作業が多い会社は労働局や労働保険事務組合に確認してみてください。
手続きの全体像を、時系列で整理すると
流れをまとめると、①採用を決めて労働条件通知書を交付する、②雇い入れ日から10日以内に労働基準監督署へ保険関係成立届、③その後ハローワークへ適用事業所設置届と資格取得届、④保険関係成立から50日以内に概算保険料申告書を提出して納付、という順番になります。並行して、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の被保険者資格取得届を年金事務所へ提出します。
さらに、給与を支払い始めるタイミングでは、税務署への給与支払事務所等の開設届出書や、源泉所得税の納期の特例に関する申請といった税務側の手続きも出てきます。労働保険・社会保険・税務の3方向が同時に動くので、採用日が決まった時点でカレンダーに期限を書き込んでおくと抜け漏れを防げます。
期限を過ぎてしまった場合でも、気づいた時点で速やかに提出するのが基本です。遅れた理由や対応については窓口の判断によるため、自己判断で放置せず、管轄の労働基準監督署やハローワークに相談してください。
労働保険の届出は書類の種類こそ多くありませんが、加入対象者の判定、役員や家族従業員の扱い、就業規則や36協定が必要になる時期の見極めなど、実態に応じた判断が必要な場面が出てきます。はじめての採用で不安がある場合や、雇用形態が複数にまたがる場合は、社会保険労務士に相談し、あわせて給与計算と源泉徴収の処理については税理士にご確認ください。手続きの詳細な要件は、厚生労働省や各労働局・ハローワークの最新の公表資料でご確認ください。
よくある質問
会社設立をしただけで、労働保険の届出は必要ですか
従業員を雇っていない段階では、労働保険の手続きは通常発生しません。はじめて人を雇い入れた日が起点になります。ただし法人の社会保険は設立後に手続きが必要になるのが一般的なので、こちらは別に確認してください。
アルバイトを1人だけ雇う場合も、労災保険の手続きは必要ですか
労災保険は労働時間の長短にかかわらず、雇われて働く人が対象となるのが基本的な考え方です。短時間のアルバイトでも労働基準監督署への保険関係成立届が必要になることが多いです。一方で雇用保険は労働時間や雇用見込み期間の要件があり、対象外となる場合があります。
労働基準監督署とハローワーク、どちらから先に行けばよいですか
労働基準監督署が先です。保険関係成立届を提出して労働保険番号が付番されてから、ハローワークで雇用保険の届出を行うのが通常の流れです。ハローワークでは成立届の控えの提示を求められることがあります。
届出の期限を過ぎてしまいました。どうすればよいですか
気づいた時点で、できるだけ早く管轄の窓口へ提出するのが基本です。遅れた場合の取扱いは状況によって異なるため、自己判断で放置せず、労働基準監督署やハローワーク、社会保険労務士に相談してください。