根抵当権の債務者が本店移転したとき|変更登記の要否と必要書類
本店移転の登記が終わってひと安心、と思ったら、金融機関から「不動産の登記も直してください」と連絡が来た——小さな会社でよくある場面です。会社の登記簿(商業登記)と、土地建物の登記簿(不動産登記)は別の帳簿で、片方を直しても自動では揃いません。この記事では、根抵当権の債務者として自社の本店が登記されている場合、根抵当権者(金融機関など)が本店移転した場合のそれぞれについて、変更登記が要るのか、誰が申請するのか、何を用意するのかを順番に整理します。
この記事の結論
- 会社が本店移転しても、不動産登記簿に記録された根抵当権の債務者の本店表示は自動では書き換わらないため、別途、債務者の表示変更(債務者変更)の登記を申請するのが原則です。
- 債務者の本店移転にともなう変更登記は、根抵当権者を登記権利者、不動産の所有者(設定者)を登記義務者とする共同申請で行い、登記原因は「年月日本店移転」とするのが一般的です。
- 登記原因証明情報は会社の登記事項証明書(履歴事項全部証明書)が基本ですが、会社法人等番号の提供で添付を省略できる扱いがあるため、申請先の法務局や司法書士に確認してください。
本店移転したら、根抵当権の債務者の表示も変更登記が必要ですか
会社の本店移転は、法務局に本店移転の登記を申請して完了します。しかしこれは商業・法人登記簿の話で、土地や建物の不動産登記簿とは別の帳簿です。不動産登記簿の乙区に「債務者 ◯◯県◯◯市… 株式会社△△」と旧本店で記録されている場合、その記録は本店移転登記をしただけでは書き換わりません。
そのため、実務では別途、根抵当権の債務者の表示を新本店に改める変更登記を申請します。登記原因は「年月日本店移転」とし、移転の効力が生じた日(本店移転を決議・決定し、実際に移転した日として商業登記に記録された日)を用いるのが通常です。移転が複数回あって旧本店が二つ以上前の住所になっている場合は、その経過が分かるように申請します。
なお、不動産の所有者(登記名義人)としての住所も旧本店のままであれば、そちらは「登記名義人表示変更」の登記として別枠で考えます。債務者としての表示と、所有者としての表示は登記の種類が違うため、どちらも必要なのか、どの順で申請するのかを最初に切り分けておくと迷いません。
法人の本店移転は、不動産登記に職権で反映されますか
「会社の登記を直したのだから、法務局の側で不動産登記も直してくれるのでは」と考える方は多いのですが、原則として申請がなければ不動産登記は動きません。ただし近年の不動産登記法の改正で、会社法人等番号を持つ法人が所有権の登記名義人である場合に、法人の住所(本店)変更などを登記官が職権的に不動産登記へ反映させる仕組みが設けられています。対象となる登記や施行の時期、事前の申出の要否については、法務省・法務局の最新の案内で確認してください。
重要なのは、この職権的な仕組みが想定しているのは主に「所有権の登記名義人」である点です。根抵当権の債務者は、その不動産の登記名義人ではなく、担保される債権の債務者として記録されている当事者にすぎません。したがって、債務者としての本店表示は職権では変わらず、当事者からの申請が必要になると考えておくのが安全です。
「職権で変わるかもしれないから待つ」という判断は、金融機関との取引がある会社にはおすすめできません。追加融資や極度額の変更、他行からの借換え、将来の抹消といった場面で、登記の前提として債務者表示の変更を求められることが多いためです。先に済ませてしまうほうが、結果的に手間が少なくなります。
債務者の本店移転による変更登記は、誰がどう申請しますか
根抵当権の債務者の表示を変更する登記は、根抵当権者(金融機関など)を登記権利者、不動産の所有者である設定者を登記義務者とする共同申請で行うのが一般的です。自社所有の不動産に自社を債務者とする根抵当権が設定されているケースでは、会社が義務者として関与し、金融機関側と歩調を合わせて申請することになります。
申請は、その不動産を管轄する法務局に対して行います。会社の本店移転登記を出した法務局とは管轄が異なることがあるので、対象不動産の所在地で管轄を確認してください。複数の不動産に同じ根抵当権が設定されている場合は、対象となる不動産をすべて洗い出したうえで申請範囲を決めます。
進め方としては、①本店移転の登記が完了した会社の登記事項証明書を取得する、②根抵当権が設定されている不動産と根抵当権者を、登記事項証明書や金銭消費貸借契約の書類で確認する、③金融機関の融資担当に連絡し、どちらの司法書士が手続きするかを決める、という順番が現実的です。多くの場合、金融機関が指定する司法書士が申請を担当します。
登記原因証明情報など、必要書類は何を用意しますか
登記原因証明情報は、本店移転の事実と日付を証明するもので、会社の登記事項証明書(履歴事項全部証明書)が基本になります。旧本店から新本店への移転の経過が読み取れることが大切なので、移転前の本店が記録されているものを取得してください。なお、申請書に会社法人等番号を記載・提供することで、証明書の添付を省略できる取扱いがあります。省略できるかどうかは申請の内容によるため、申請前に法務局または司法書士に確認しましょう。
そのほかに一般的に必要となるのは、共同申請にともなう委任状(司法書士に依頼する場合)と、申請書本体です。債務者の表示変更は登記名義人そのものの変更ではないため、登記識別情報や印鑑証明書の提供が不要と扱われることがありますが、事案や登記の内容によって判断が分かれる部分です。ここは自己判断せず、管轄法務局への事前相談か司法書士への確認をおすすめします。
登録免許税は、不動産の個数に応じた定額で計算されるのが一般的です。金額は不動産の数や登記の種類で変わりますので、最新の税額は法務局の案内や司法書士の見積りで確認してください。司法書士に依頼する場合の報酬も事務所ごとに異なるため、事前に見積りを取るのが確実です。
根抵当権者(金融機関)が本店移転した場合はどうなりますか
根抵当権者である金融機関が本店を移転した場合、不動産登記簿の根抵当権者の表示も旧本店のままになります。この場合は、根抵当権者が登記名義人にあたるため、「登記名義人表示変更」の登記として、根抵当権者が単独で申請するのが原則です。登記原因は同じく「年月日本店移転」となります。
設定者である会社の側で何かをする必要は通常ありませんが、金融機関の合併や商号変更が絡んでいると、表示変更ではなく承継を示す登記が必要になることもあります。自社の不動産の登記事項証明書を取ったときに、根抵当権者の名称や住所が現在の取引先と食い違っていたら、まず金融機関に問い合わせて、どの登記が未了なのかを確認してください。
将来、借入を完済して根抵当権を抹消する段階になると、登記簿上の表示と現在の会社の実体が一致していることが前提になります。債務者側・根抵当権者側のどちらの表示がずれていても、抹消の前に表示を整える登記が必要になり、その分だけ日数がかかります。完済や売却の予定がある会社ほど、早めに点検しておく価値があります。
本店移転後にまとめて点検したい、不動産まわりのチェックリスト
本店移転の登記が完了したら、不動産を持っている会社は次の三つを順に確認すると漏れが減ります。まず、所有している不動産の登記事項証明書を取得し、所有権の登記名義人の住所(本店)が新本店になっているかを見ます。次に、乙区に記録された抵当権・根抵当権の債務者欄の本店表示を確認します。最後に、根抵当権者の名称・住所が現在の取引先と一致しているかを見ます。
三つのうち一つでもずれていたら、金融機関の融資担当に連絡し、あわせて手続きするかを相談してください。複数の不動産・複数の金融機関が関わる場合は、同じ司法書士にまとめて依頼したほうが、書類の取り寄せや日程調整の手間が少なくなります。
あわせて、本店移転にともなう他の手続き(税務署・都道府県税事務所・市区町村への異動届、年金事務所・労働基準監督署・ハローワークへの届出、銀行口座や契約書の住所変更など)も期限があるものが多いので、不動産登記だけを切り離して考えず、移転後のタスク一覧に組み込んでおくと安心です。
自分でやるか、司法書士に頼むかの判断基準
判断の順番としては、まず「金融機関が関与する登記かどうか」を見ます。根抵当権の債務者の表示変更は根抵当権者との共同申請になるため、金融機関側の司法書士が手続きすることが多く、実務上は会社が単独で進める場面が限られます。この場合は、金融機関に連絡して指示に従うのが最短です。
次に、「登記の種類が一つか複数か」「不動産が一つか複数か」を見ます。所有権の住所変更だけで、不動産も一つ、移転の経過も単純、という場合は、法務局の窓口相談を利用しながら自分で申請することも考えられます。一方、本店移転が複数回ある、不動産が複数の管轄にまたがる、相続や合併が絡む、といった事情があれば、最初から司法書士に相談したほうが結果的に早く済みます。
登記の可否や添付書類の要否は、事案ごとの判断になります。不動産登記の代理・相談は司法書士の業務ですので、登記事項証明書と会社の登記事項証明書を手元に用意したうえで、司法書士にご相談ください。あわせて、本店移転にともなう税務上の届出については税理士に、社会保険・労働保険の届出については社会保険労務士に確認すると、移転後の手続き全体を漏れなく整えられます。
よくある質問
本店移転から何か月以内に不動産登記を変更する必要がありますか
根抵当権の債務者表示の変更について、商業登記のような一律の申請期間が定められているわけではありませんが、放置すると追加融資や借換え、抹消の際に前提として求められ、手続きが滞る原因になります。本店移転の登記が完了したら、速やかに金融機関へ連絡して進め方を決めるのが安全です。期限の考え方に不安があれば司法書士にご確認ください。
登記原因証明情報として、会社の登記事項証明書は必ず添付しますか
本店移転の事実と日付を示す書面として、会社の登記事項証明書(履歴事項全部証明書)を用いるのが基本です。ただし、申請書に会社法人等番号を提供することで添付を省略できる取扱いがあり、登記の内容によって扱いが分かれます。申請前に管轄法務局または司法書士に確認してください。
本店移転は法務局が職権で不動産登記にも反映してくれませんか
原則として申請がなければ不動産登記は変わりません。所有権の登記名義人である法人の住所変更などについては、会社法人等番号を利用して登記官が職権的に反映させる仕組みが設けられていますが、対象や施行時期は法務省・法務局の案内で確認が必要です。根抵当権の債務者としての表示は登記名義人とは別の扱いとなるため、申請が必要と考えて準備するのが無難です。
債務者の表示変更にかかる費用はどのくらいですか
登録免許税は不動産の個数に応じた定額で計算されるのが一般的で、司法書士に依頼する場合は別途報酬がかかります。金額は不動産の数や登記の種類、事務所によって異なりますので、法務局の案内と司法書士の見積りで最新の金額をご確認ください。