マイクロ法人と個人事業主の二刀流|併用の条件と事業の分け方

・会社設立・登記・会社のはじめかた編集部(監修:田中 祐介)

「マイクロ法人をつくって、個人事業も続ける」といういわゆる二刀流。制度として併用が禁じられているわけではありませんが、実務で問われるのは「その2つが本当に別の事業として成り立っているか」です。この記事では、併用が成り立つための考え方、事業の分け方の基準、始める順番と手続きの流れを、判断できる形に整理します。

この記事の結論

  • マイクロ法人と個人事業主の併用そのものは可能ですが、法人と個人で事業の実態が分かれていることが前提になります。
  • 事業を分ける基準は「業種が違うか」だけでなく、契約相手・請求書の名義・使う設備や口座・働く時間の実態が分かれているかで見られます。
  • 同じ業種で法人と個人に売上を振り分ける形は、実態の説明が難しくなりやすいため、設計段階で税理士に相談しておくと安心です。

マイクロ法人と個人事業主の違いは何か

マイクロ法人とは、法律上の正式な区分ではなく、社長ひとり(または家族のみ)で運営する小規模な会社を指す通称です。株式会社や合同会社として登記された法人格を持ち、決算・申告・社会保険の手続きが法人として発生します。一方、個人事業主は開業届を出せば始められ、確定申告は所得税の枠組みで行います。

大きく違うのは、①法人格の有無、②社会保険と国民健康保険・国民年金のどちらに入るか、③所得の計算と税金の種類、④設立・維持にかかる手間とコストの4点です。法人は登記費用や決算の手間がかかる代わりに、役員報酬という形で給与所得の枠組みを使えます。

二刀流を検討する人の多くは、この「法人側と個人側で扱いが違う」点に着目しています。ただし、どちらが有利になるかは所得の規模・家族構成・加入している保険によって変わるため、一般論で決めず、自分の数字で比較することが出発点です。

マイクロ法人と個人事業主の併用は認められるのか

「法人を持っている人が個人事業もしてはいけない」という決まりはありません。会社の代表者が、法人とは別に個人名義で事業を営むこと自体は、実務上もよくあります。副業として個人事業を続けたまま法人を立ち上げるケースも同様です。

問題になるのは、実態が伴っていない場合です。たとえば、もともとひとつだった事業を名目だけ法人と個人に切り分け、売上の一部を都合よく法人に付け替えているような状態は、税務上の取扱いを否認されることがあります。「別の事業だ」と説明できる根拠を、書類と取引の流れで残せているかが分かれ目です。

また、会社の勤務先がある人が法人を設立する場合は、就業規則での兼業の扱いも確認が必要です。許認可が必要な業種では、法人名義であらためて許認可を取り直す必要があるケースもあります。開始前に所管官庁や専門家に確認しておきましょう。

事業をどう分ける?まず見る4つの基準

事業の分け方で迷ったら、次の順に確認してください。第一に「契約の相手と契約書の名義」。法人の売上は法人名義で契約・請求し、個人の売上は個人名義で契約・請求する。ここが混ざっていると、他をどれだけ整えても説明が苦しくなります。

第二に「業務の内容」。同じスキルを使っていても、提供する内容や顧客層が異なるなら分ける説明はしやすくなります。たとえば、個人では受託の制作を続け、法人では自社サービスの運営や物販を行う、といった形です。第三に「使う資産と経費」。事務所、機材、通信費、口座、クレジットカードを法人と個人で分けておくと、経費の帰属が明確になります。

第四に「時間と人の動き」。どちらの仕事にどれだけ従事しているかが、役員報酬の妥当性を考えるうえでの材料になります。この4つのうち、名義と口座はすぐ整えられるので、まずそこから着手するのが現実的です。

同じ業種でも二刀流はできるのか

同じ業種で法人と個人の両方を持つこと自体が禁じられているわけではありません。ただし、同一業種・同一顧客層のまま売上を振り分けると、「なぜこの案件は法人で、この案件は個人なのか」を説明する負担が一気に重くなります。取引先から見ても、請求書の名義が案件ごとに変わるのは不自然に映りやすいものです。

現実的な整理としては、法人側と個人側で「役割」を変える方法があります。たとえば法人は継続契約・自社商品・スタッフを使う業務を担い、個人は自分だけで完結する単発の仕事を担う、といった切り分けです。この場合も、契約書と請求書の名義をそろえ、業務の範囲を書面に落としておくことが前提になります。

どうしても同じ業種で分けたい場合は、設計段階で税理士に相談し、取引の流れと書類の残し方をあわせて決めておくことをおすすめします。あとから説明を作るより、最初から実態と書類を一致させるほうがはるかに楽です。

二刀流を始める手順と、日々の運用で気をつけること

進める順番は、①どの事業を法人に移すかを決める、②法人の商号・事業目的・本店・役員を決めて定款を作る、③公証役場での認証(株式会社の場合)を経て法務局へ設立登記を申請する、④登記完了後に税務署・都道府県・市区町村へ設立届などを提出する、⑤年金事務所へ社会保険の加入手続きを行う、という流れです。個人事業を続ける場合は、廃業届は出さずにそのまま継続します。

法人の事業目的には、法人側で行う事業をきちんと書いておきます。あとから事業を追加すると変更登記が必要になるため、当面予定している範囲は設立時に含めておくとよいでしょう。定款や登記の書き方に不安があれば、司法書士に相談すると手戻りが減ります。

運用に入ったら、法人口座と個人口座を必ず別にし、会計ソフトも法人用・個人用で分けて記帳します。法人と個人の間でお金や物のやりとりが発生する場合は、賃貸借契約や業務委託契約などの書面を交わし、条件を決めておきます。確定申告は、法人の決算申告と個人の所得税申告の両方が必要になる点も忘れないでください。

二刀流が向く人・急がないほうがよい人

向いているのは、すでに別系統の収入があり、それぞれの取引先や業務内容がもともと分かれている人です。たとえば受託業務とは別に、物販や不動産、自社サービスを育てたいといったケースでは、法人側に切り出す理由が説明しやすくなります。

一方、収入がまだ一本で、分ける理由が「税や社会保険の扱いを変えたいから」だけの場合は、急がないほうが無難です。法人には設立費用のほか、決算申告や社会保険の事務、赤字でも発生する税負担があります。維持の手間とコストを上回るメリットがあるかは、自分の数字で試算する必要があります。

判断に迷ったら、この順に見てください。第一に「法人側に回せる、独立した事業の実態があるか」。第二に「その事業の見込み売上が、法人の維持コストと事務負担に見合うか」。第三に「契約・口座・書類を分けて運用し続けられるか」。3つとも満たすなら検討する価値があります。ひとつでも怪しいなら、まずは個人事業のまま整えるほうが現実的です。

なお、社会保険や税務の取扱いは個々の事情で判断が変わり、制度の詳細も見直されることがあります。具体的な設計に入る前に、税務は税理士、社会保険や役員報酬の実務は社会保険労務士、設立登記は司法書士、契約書の作り方は弁護士へ、それぞれ早めに相談しておくと安心です。制度の要件は所管官庁の最新資料もあわせて確認してください。

よくある質問

マイクロ法人をつくったら、個人事業の廃業届は出す必要がありますか。

個人事業を続けるのであれば、廃業届は出さずに継続します。法人へ事業をすべて移す場合は廃業届の提出を検討することになりますが、どこまで移すかで扱いが変わるため、税理士に確認してから判断してください。

法人と個人で同じ取引先と契約してもよいですか。

禁じられてはいませんが、同じ相手に法人名義と個人名義の両方で請求すると、区分の説明が難しくなりがちです。契約する業務の範囲を分け、それぞれ別の契約書を交わしておくと、実態を示しやすくなります。

二刀流にすると確定申告はどうなりますか。

法人の決算申告と、個人事業の所得税の確定申告の両方が必要になります。会計も別々に行うため事務量は増えます。記帳の方法や帳簿の保存については、電子帳簿保存法など関連する制度の要件を所管官庁の資料で確認しておきましょう。

法人を設立すると社会保険はどうなりますか。

役員報酬が発生する法人では、社会保険の加入手続きが必要になるのが一般的です。報酬の額の決め方や加入の要否は個別の事情で変わるため、年金事務所や社会保険労務士に確認したうえで設計してください。

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この記事は一般的な情報をまとめたものです。税務・法務・労務の個別の判断については、税理士・弁護士・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。 料金や条件は変わることがあるため、お申し込み前に必ず各サービスの公式サイトで最新の内容をご確認ください。